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Re: Multiplex Cross Point 更新中 ( No.794 )
日時: 2010/12/27 15:07
名前: インク切れボールペン (ID: uUme72ux)

”氷結の魔術師”。
魔術師の間で、そんな異名で畏怖と畏敬の念を込めて呼ばれる、その男。
魔術組織【荒廃せし失楽園】の設立後、柚葉 椛に組織を任せ、その後は行方を眩ませていた。
何の目的での失踪か、何処に消えたのか。
誰もがそんな事を考え、突然として非常識の世界から行方を眩ませて男は、此処に舞い戻った。
一見、ふざけた風貌だが、その実力は恐らく、【荒廃せし失楽園】の中で最強の魔術師。
氷を削って造られた長刀の刃先には、ダージスの背中に一撃を与えた為か、彼の血が付着している。

「…なるほど。本当なら俺の一撃で背中を両断できたはずなんだが。神の力を取り込んだのは伊達じゃない、ってか」

「助かったよ。この力を取り込む以前に君の一撃を受けてれば、完全に即死だったよ」

「ガキを利用して、神様の力を身体に取り込む、か。どんな風に考えても悪役のすることだろ」

一連の会話を聞きながら、魔術師達は騒然としていた。
何で、この状況で総帥が現れたのか。
それより、今まで何処に行っていたのか、だとか。
何で、相変わらずひょっとこの仮面を被ってるんだ、とか。

「…懈い。何で、あの愉快なバカ仮面が帰ってきたの?」

「わ、解らないです。でも、この状況では凄く頼り甲斐がありますよ!?」

「だけど、あの仮面を見てると気が抜けるゼ」

全くだ、と秋兎の言葉に面々は頷き、視線を仮面に釘付けにする。
正直に述べれば、あの仮面を見ていると緊張感が緩む。
此処が戦場だと忘れてしまうほどに。

「…眠い」

「黒雅ーッ!? 寝るな、此処は戦場だぞ!? しかも、敵は神の力を取り込んだ最強の相手なんだぞ!?」

「…んぁ。んー、駄目だよ、紀和ぁ。もう食べられないよ…。もう白飯は良いから…」

「結月ーッ!? お前は寝るな!! 俺達を率いる部隊長だろうが!? っていうか、怪我人に注意させるな…、ごふぅ!?」

気を奮わせて喋った為か、一度は重傷を負っていた紀和は口から、ごぼり、と血を零す。
怪我が要因では無く、急いで喋った所為というのが何とも情けない。
そんな三人を眺めながら、星姫 月夜は戦場にいるにも関わらず、気が抜けたように溜息を吐いた。

「…まぁ、あの仮面を見れば気も抜けるな」

「神の力を取り込んだ奴との戦いの最中だってのに、何なのよ、この休憩タイムなムードは」

「言うな、如月。あの仮面を見たら、誰だって気が抜けるのも理解できる」

「ふふ…。だが、お嬢ちゃん達の総帥殿は個性的な人だなぁ」

月夜の隣で、仮面の男性を見据えながら、桂裏 あがさは楽しそうに呟いた。
彼女の傍の一莟 レイヌは面倒臭そうに息を吐き、

「…一度は逢った事あるけど、何も変わってないのね。本当にバカ総帥ね」

「全くだ。だが、この緊迫した状況で程良く気が紛れるから良しとするべきだろう」

「そうだけど…。あ、やばいわ。何か肩から力が抜けてるし」

何なのよ、この状況。
そんな風に呟き、如月 琉那は他の連中がどうなっているか視線を移した。
彼女が捉えたのは、威牙 無限に、黒島 聖と冥弛 裄乃。

「やべーな、おい。この雰囲気に呑まれたら最後、その辺でふて寝も可能だぞ」

「そうッスねー。何か眠いし。つーか、これって最終決戦って状況ッスよね?」

「堅苦しい事を言ったら駄目だってば、聖ー。休める時は休む。あー、星でも数えよっかなー?」

「おい。クロトと椛がぶっ倒れてんのに、休憩なんかできるかよ。カノンってガキを助けんだろうが、臨戦態勢だ」

気を緩めない威牙に対し、休憩タイムの雰囲気に呑まれる黒島に裄乃。
如月は視線を変え、次に捉えたのは月架と公孫樹、そして輝星と光星だった。

「気を緩めるなよ、蒼天。あの男が現れて随分と雰囲気が変わったが、此処が戦場である事に変わりは無い」

「解ってますよ。…隊長こそ、気を緩めないでくださいよ?」

「ふっ。お前さんは誰にものを言っているんだ? 俺に油断は無い、裁縫の時でも、ラインダンスの時でもな」

「ちゃっかり趣味を披露しないでください、隊長」

「え。雅ー、ダンスを踊れるのー?」

「ああ、光星。近所の”ご近所さんダンスの会”の中では随一の踊手と呼ばれているくらいだ」

「ちょ…ッ!? ちゃっかり何に参加してるんですか、隊長!?」

「えー、凄い!! 他には!?」

「他か。そうだな、”腹筋愛好会”に、”制服の第二ボタン奪取の会”に、”俺の右手が真っ赤に萌えるの会”だな」

「何なんだよ、その名前が異常に個性的な集まりは」

「隊長ーッ!? あんた、どんだけ趣味があるんだよ!? つーか、最後の会合の意味が不明だろ!?」

「ふっ。蒼天、まだまだ青いな」

何がだ!? と反論する月架に、公孫樹は腰に両手を当てて、はっはっは、と大笑するばかり。
気を緩めるな、と言っていた公孫樹やら蒼天は、そんな休憩タイムの雰囲気に既に呑まれていた。
如月は、駄目じゃん、と肩を竦め、そんな休憩タイムの雰囲気の原因となった人物を見据える。
漆黒の紳士服という様相に、ひょっとこの仮面を被った、ふざけた風貌の総帥へ。

「さて、ダージス。俺も帰ってきた途端に戦闘なんて面倒は早いとこ終わらせたい。だから、」

ヒュッ…、と氷の長刀が空を斬る。
その瞬間、彼の醸し出していた気の緩んだ雰囲気は一変する。
戦場特有の緊張感を含んだ雰囲気が周囲に瞬く間に浸透し、魔術師達は臨戦態勢を取った。

「ガキの遊戯は此処までだ」

ひょっとこ仮面の無造作に延びた黒髪が夜風に靡く。
そして、仮面の奥の口が、魔術師達へ命令へ下した。

「往くぞ、朽ちた栄光の苑”失楽園”の堕天使達よ。その胸に叛意を宿し、神の首へ喰らい付け!!」