コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Multiplex Cross Point 18話更新 ( No.797 )
- 日時: 2010/12/28 01:04
- 名前: インク切れボールペン (ID: uUme72ux)
「褒めるよ。このボクに一撃を与えた事を。だが、次は無い」
刹那、カノンの絶叫が一層酷くなった。
最早、死んでしまった方が楽、と考えるほどの激痛がカノンの身体を蝕む。
そして、その激痛の代わりに、ダージスの身体に凄まじい量の神の力が内包されていく。
人間が扱えるはずの無い、人智を越えた、絶対の力を。
周囲の空気が渦を巻き、ダージスの背中の切傷は何の前触れも無く、塞がる。
誰もが息を呑み、その光景を見据え、誰もが、その光景に恐怖した。
禁忌を犯し、その結果に得られる莫大な、膨大な力を前に。
「腹に力を籠めろ。奴の殺気に呑まれるな。不撓不屈を心に誓え」
来るぞ、と。
ひょっとこ仮面の言葉に、誰もが臨戦態勢を取る。
神格化された存在との戦いを覚悟して。
その瞬間、カノンの絶叫が停まる。
「最高の気分だ。これが我ら人間の常識を越えた、神の力か…!!」
目を疑わせる光景が現れる。
ダージスの背中に顕れた”光の双翼”が蠢く。
「最高の気分だよ、本当に。この力があれば、君達など一蹴で終わる」
始めようか、至上の戦いを。
次の瞬間、───────────────────音が消える。
空間から、世界から。
音が消えた、と魔術師達が認知した時には既に遅い。
爆風が吹き荒れた。
全てを薙払う、破壊の爆風が。
世界を震撼させる、壮絶な破壊の嵐が。
「滅茶苦茶だな。一撃で、これほどの威力か…!!」
間一髪。
爆風を、魔術によって展開した”氷の壁”で防いで見せたひょっとこ仮面は驚愕と共に呟いた。
彼でなければ、身体を爆風に呑まれ、確実に即死だったであろう。
ダージスは侮蔑の笑みを浮かべ、”光の双翼”を動かし、漆黒の天へ身体を浮かせる。
眼下に魔術師達を捉え、彼は言う。
「抗えるかな、君達に。この圧倒的な力を前に!!」
ダージスには勝利への確信がある。
本気になれば、眼下に捉える魔術師達程度、簡単に薙払う事ができるのだ。
これは実験。
神の力を、自分がどれほどの力を扱えるか、という。
「無様に逃げ回ってくれ。これじゃあ、実験にならない」
最早、次元を異にする怪物は静かに告げる。
楽しませろ、と。
その言葉に恐怖と緊張から言葉を発さぬ魔術師達。
ただ一人を除いて。
「聞くが。お前は、神の力とやらを完全に取り込んだのか?」
「残念だが、まだ六割程度さ。まぁ、まだ完璧に扱えていないから、使っている力は二割程度かな」
なるほどな、と。
仮面の奥で、細く細く、ひょっとこ仮面は笑う。
まるで、勝機を見出したかのように。
「この時を待っていた。なぁ?」
誰に向かって言っている、とダージスは目を細め、何の変哲も無い疑問を浮かべる。
それは、部下の魔術師達に述べているのでは無い。
視線は、ダージスに向けられている。
否、実際はダージスに向けられているのでは無い。
彼の視線の先に捉えるのは、ただ一人の青年。
「錆螺 唄」
何だと!? と。
ダージスが身を翻し、後を振り向く時には既に遅い。
「ええ、待ちましたよ。この時を。戒めよ、───────────────────”神縛りの鎖”」
バンッ、と漆黒の空間が歪み、底の無い闇を連想させる黒の鎖。
無数の黒鎖は闇より顕れ、ダージスを縛る。
タンッ、と軽快な音と共に突如として現れた錆螺 唄は床に着地した。
「どうも。待たせましたね。真打ちの登場ですよ」
「おー。やっと到着か、お兄さん。随分と遅かったじゃないか」
「格好良く登場する元気はあるのね」
「実際を言うと、それなりに厳しいんですよ、レイヌさん」
ははは…、と元気の無い微笑を湛え、彼は一連の会話を終え、ダージスの方へ向く。
”神縛りの鎖”と呼ばれる魔術によって顕れた、漆黒の鎖に縛られたダージスを見据えて。
「動けないでしょう。貴方が神の力を取り込む事を予期し、その為の魔術を準備しましたから」
「…ッ、この程度の魔術で、ボクの動きを停めるというのか…!?」
「ええ。それを準備するのに時間が懸かりました。此処からは私も参戦をさせて戴きましょうか」
「…嘗めるなよ、錆螺 唄。その程度で、ボクの動きを停めていられるとでも…」
「思ってます。加えて、私の魔術は布石に過ぎない」
カノンさんを救出する為の、ね。
その言葉に訝しむ暇は無かった。
ジャギッ、とダージスの耳に金属音が聞こえた。
「術式構築完了。基本骨子構築完了。現出せよ、”ブリューナク(貫くもの)”!!」
それは、柚葉 椛の声。
倒れていたはずの彼女に視線を向け、ダージスは目撃する。
銀色の銃を両手で持ち、その銃口から今にも飛び出さんとする光の弾丸を。
「何…を…!?」
「簡単な話です。貴方とカノンさんの間に構築された”ライン”を破壊する」
カノンとダージスの間には、魔術の”ライン”が構築されている。
神の力をカノンが内包し、それをダージスの身体に取り込む、そんな”ライン”が。
それがカノンを苦しめる要因となっているのだ。
だから、
「奴の”ライン”を破壊せよ!! ─────────────────────”ブリューナク”!!」
轟音が響く。
銃口から放たれた”光の槍”はダージスの身体に突き刺さり、その内に造られた”ライン”を。
徹底的に破壊する。
バギンッ、と何かが砕ける音が響き、カノンの手足を戒めていた鎖が砕け散る。
ぐらり、とカノンは態勢を崩し、その場に倒れた。
「神の力を扱えるのは、カノンさんの”神へのアクセス権”があってこそ。それが無ければ、貴方は」
ダージスの身体が、蠢く。
魘されるように、苦しみ悶えるように。
「神の力は強力無比。人間には扱えないほどに。だからこそ、貴方は取り込んだエネルギーに呑まれ、」
冷徹な視線がダージスを捉える。
罪人の処罰を見送る処刑人のように。
「──────────────────────────起爆する」
さようなら。
単調な言葉が錆螺 唄の口から述べられた後、ダージスの絶叫が周囲に木霊する。
「が…あ、ァァァァァァァァァァァァァァァァァァ─────────────────ッ!!!」
刹那。
ダージスの内から取り込んだ神の力が溢れ。
彼を中心に、凄まじい爆発が起きた。