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- Re: Multiplex Cross Point 18話更新 ( No.800 )
- 日時: 2010/12/30 14:58
- 名前: インク切れボールペン (ID: uUme72ux)
Multiplex Cross Point─Season1─ Episode19
漆黒の虚空に、爆発の余波たる猛風が吹き荒れる。
ダージス・シュヘンベルクは”神の力”を身体に封じきれず、起爆した。
そもそも、”神の力”を人体に取り込むという事は不可能な事なのだ。
例えるなら、風船に許容量を格段に越えた量の水を注ぎ込むのと同義。
結果、風船は内部の水の量に耐えられず、爆ぜる。
それを可能とする為の最重要な鍵となったのが、カノンの”神へのアクセス権”。
これは、”神の力”を人間の身体に取り込む事を可能とする、そんな特性を付加する類稀なスキル。
その恩恵を自分に付加する為、ダージスは魔術的な”ライン”を彼女との間に構築した。
が、その”ライン”を断たれた為に、”神の力”の抑止力となっていた恩恵は失われ、彼は爆ぜたのだ。
「…」
魔術師達の間に、沈黙が流れる。
ふと、誰かが、勝ったのか、という疑問を口にした。
あまりにも唐突な状況に思考が追い付いていなかった為に。
だが、その思考を追い付かせる一言を、錆螺 唄は投げ掛ける。
「あの爆発では生きていません。勝ったんですよ、我々は」
勝利を確信させる一言は、魔術師達の間に凄まじい速度で浸透した。
そして、喊声があがる。
だが。
「随分な騒ぎじゃないか。まさか、この僕を倒した、と考えたのかい?」
誰もが、顔を真っ青に豹変させた。
誰もが、絶望と衝撃に打たれ、声の音源へ身体を向ける。
漆黒の虚空に、彼は佇んでいた。
ただ、鮮烈に。
「やぁ、諸君。僕の爆発ショーは楽しんで貰えたかな?」
そんな馬鹿な、と錆螺 唄は唖然と驚愕の声を漏らした。
絶望と驚愕に打ち拉がれる錆螺 唄へ、ダージスは視線を向けると、
「”神の力”を逆用し、僕を起爆させる、か。妙案だね、実に妙案だった」
けれど、と彼は言葉の最後に付け加える。
不敵な笑みを顔に貼り付けて。
「君は残念だが、思慮の足りない人物だ。何故ならば、僕の能力を侮っていたからだ」
「…」
「”神の力”は”神へのアクセス権”が無ければ扱えません。そんな定説は聞き飽きた」
だから、僕は新たなる公式を構築した。
結果、僕は”神へのアクセス権”が無くとも多少ながらの”神の力”を扱えるようになったんだ。
「ま、結論を言えば、”神へのアクセス権”ってのは”神の力”を完全に使役する為の能力って事さ」
「…まさか、最初から私の策を」
「解ってた。まぁ、人間爆弾になった所為で内包してた”神の力”の六割は失ったけどね」
逆に述べるなら、まだ四割は僕の身体に内包されている、と。
ダージスはその事実を突き付けた上で、ただ告げる。
「予想外の善戦を賞賛するよ。だからこそ、本気で戦おう」
バンッ、と何が爆ぜる音がダージスの背中から響く。
其処から顕れたのは、神とは程遠い、揺らめく”黒焔の双翼”。
悪魔を連想させるそれを動かし、ダージスは天高く飛翔する。
「さぁ、始めよう。これが最後の晩餐だ。歌え、踊れ、この狂宴で!!」
空間が歪む。
何かが割れる音が響き、漆黒の虚空からそれは顕れる。
「…、冗談だろ!?」
威牙 無限は、呆然と声を上げた。
常識を越えた、否、非常識を越えた、その存在を前に。
鋼鉄を思わせる硬質の皮膚に、威圧感を感じさせる巨躯。
口から見えるのは、全てを穿つであろう鋭利な牙。
背中に生えているのは、嵐を巻き起こすほどの風を起こす強靱な双翼。
顕れた、それは。
巨躯の龍だった。
「さーて。君達の戦いを見せて貰おうか。これが僕の本気だ。───────────────やれ、”使徒”」
”使徒”は吼える。
裂帛が漆黒の闇に響き、神の使役する”使徒”、その脅威が魔術師達を襲う。