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Re: Multiplex Cross Point 18話更新 ( No.811 )
日時: 2010/12/30 14:56
名前: インク切れボールペン (ID: uUme72ux)

漆黒の空。
ダージス・シュヘンベルクは眼下で展開される”使徒”と魔術師の激戦を眺めていた。
さながら、天界から眼下の下界で展開される愚かな戦いを眺める神の如く。

「その”使徒”を撃滅するには術者の僕を倒すのが最も早いが、此処じゃ君達には手が出せない」

残念だったね、と彼は激戦を眺めながら、嘲笑を表情に浮かべた。
”使徒”の力は人間が勝てるような次元では無い。
魔術師達の敗北は時間の問題だと、彼は確信を持っていた。
そう、たった一つの不確定要素が現れるまでは。

「手が出せない、ね。そいつは間違いって奴だな、ダージス・シュヘンベルク」

背後から、声が聞こえた。
その不確定要素たる、青年の声が。
ダージスは彼の方を向けない。
肝を抜かれるような驚愕ゆえに。
ただ、声を振り絞り、彼は背後の青年へ問い掛ける。

「…何故だ。どんな方法を使って此処まで来た?」

「此処には来れない。…まず、それを考えたのが失敗だ。魔術師の基本概念を忘れてるぜ、ダージスさんよ」

「”常識に対する非常識”。なるほど、この僕の常識を見事に越えて見せた、って訳か」

「”酸素を極限に集束させて足場を形成する”。風属性魔術の”凝縮”系統の魔術だよ。知ってるだろ」

「解ってるさ。一つだけ謎が残ってる」

そう、たった一つの謎が。
此処まで来られる事は、ダージスは考えていなかった。
そもそも、此処まで魔術を使って辿り着いたとしても、魔力は枯れ果てる。
それを計算して、此処まで飛んだ。
だが、それを背後に佇んでいる青年は完璧に狂わせて見せた。

「聞かせてくれ。何で、君は此処まで来て、依然として魔力が枯れない?」

「…先程と同様の事を何度も言わせんのか。言ってるだろ、────────────解ってるだろ、ってな」

青年の言葉に、ダージスは口の端を吊り上げた。
歪な笑顔を浮かべ、彼は眼下の激戦を眺めながら口を動かし始める。

「君の組織の構成員については色々と調べた。経歴、出生、色々とね」

一見、話から逸れたような話だが、それは違う。
この話は、先程の会話に確かに繋がっている。

「僕は一人の人物に脅威を覚えた。”神の力”を身体に納めた僕にとって最も脅威となるであろう人物を」

「へぇ。天才のダージス・シュヘンベルクが脅威となると捉えた人物か。是非とも聞かせて貰いたいもんだ」

「そいつは過去に、とある魔術組織に所属していた。”現在、助けを求める誰かの為に”。そんな信念を持った組織に」

青年は、ダージスの言葉に目を細めた。
そんな青年の変化に感じながら、尚もダージスは語る。

「組織の戦いは実に華麗だった。助けを求める誰かの為ならば、どんな事象にも飛び込んだ。戦争に、天災にすらも」

「…」

「幾多の戦場を越え、幾千の死地を越え、幾多の人々を救った。不条理の中で助けを求めた人々を」

青年は何も語らない。
ただ、沈黙を護って、ダージスの言葉に耳を傾け続ける。

「その善意の行動が善意の連鎖に繋がると信じて…。だが、その善意の行動の日々は突然に断たれる事となった」

「…」

「魔術の世界で最も巨大な魔術組織”魔導連邦”が、その組織の危険と判断し、殲滅作戦を敢行したからだ」

”魔導連邦”。
全ての魔術組織の監視を目的とする魔術組織で、魔術の世界では最も規模が大きい組織。
それは時に、世界に危害を及ぼすと判断した魔術組織の殲滅を敢行する場合もある。

「だが、連邦の連中でも殲滅には手を煩った。何故なら、その組織の者達は誰もが魔術師として優れた者達だったから」

「…」

「故に、彼らは戦乱や天災に飛び込んで人々を救えた。そして、連邦に叛乱を怖れられ、殲滅作戦を敢行させられた」

「それで、その組織はどうなったんだ?」

「最後は物量に呑まれて壊滅。組織の総帥だった男は討たれた。だが、連邦はそれだけでは停まらなかった」

組織を殲滅後、連邦が行ったのは”残党狩り”だった。
最早、戦いをする気力すら残されていない者達に対して。

「が、”残党狩り”は失敗に終わる。組織の構成員の一人が決死の殿となって、”残党狩り”の者達を逆に殲滅したんだ」

「…」

「そして、残党は行方を眩ませた。だが、僕はその一人の行方を突き止めた。奴は【荒廃せし失楽園】に身を置いていた」

そして、現在。
そいつは此処にいる。
僕の後に佇んでいる、君だよ。

「正解だろう? 柚葉 クロト。いや…、正確には違う。かつての本当の名前で呼ぶべきか」

その言葉に、青年は口の端を吊り上げた。
まるで、謎を解いた探偵を賞賛するように拍手をしながら。

「其処まで知っていたとはな。それなら、解っているはずだ。俺の実力を。”食い逃げ”とは違う、俺のもう一つの異名を」

無論だよ、とダージスは頷く。
連邦の”残党狩り”を殲滅するほどの実力の魔術師を有する組織に所属していた者の実力を。
柚葉 クロトの本当の名前と、本当の異名を。
知っている、と。

「その組織に所属していた程の魔術師なら、此処まで来れても不思議じゃない。それほどの魔術の玄人だ、君は」

此処からは、僕も死力を尽くす。
始めるか、命を賭する戦いを。

「君ならば僕を殺せるかも知れない。いや、君ならば僕を殺せるだろう。来い。───────元”賢者の矛”の魔術師」

理想を抱き、善意の連鎖を求めた者よ。
君の矜持と命を懸け、僕へと挑め。

「”神殺し”の魔術師、───────────────────────クロト・ユズハ・フレスヴェルク!!」