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- Re: Multiplex Cross Point 19話更新 ( No.827 )
- 日時: 2011/01/03 13:38
- 名前: インク切れボールペン (ID: uUme72ux)
フレスヴェルクの一族。
魔術師となった者に、その名前を知らない者は無い。
古の昔、魔法世界と呼ばれる我々の住んでいる世界とは別の世界の創製に関わったとされる一族。
魔法世界を創製した”始祖の魔術師”は、世界を創製後、フレスヴェルク一族に、とある役目を与えた。
それは、”神”と呼ばれる存在の破壊。
その為に、フレスヴェルク一族は、”始祖の魔術師”から、他の魔術を一線越えた魔術を授かった。
その名は、”神殺し”と呼ばれる、基礎魔術属性である六つの魔術の統合した複合魔術。
またの名を、
Multiplex Cross Point─中央交差点─。
それぞれの属性が魔力の線を引き、それが一定の場所で交差する。
故に、フレスヴェルク一族の使役する”神殺し”は、そんな風に呼ばれているのだ。
「君の能力は既に把握している。だからこそ、僕は恐怖する!!」
漆黒の闇で、二つの人影が激突する。
”黒焔の双翼”を激しく羽ばたかせ、ダージス・シュヘンベルクは漆黒の闇を駆ける。
駆け抜ける疾風の如く。
「”神殺し”。絶対とされる存在たる”神”を殺す権利が君にはあるのだから!!」
放たれる言葉に、クロトは静かに笑う。
薄く薄く、ただ口の端を吊り上げて。
「滑稽だな。”神の力”を身に納めた奴の台詞じゃ無いぞ、そいつは!!」
「絶対なる力。それが”神の力”だ。だが、君はそれを徹底的に破壊する。言うなれば君は、絶対の破壊者」
世界の均衡を崩す、唯一無二の存在だ。
漆黒の空間に、ダージスの言葉が響く。
「だが、君を殺せば僕の脅威は消える。”神殺し”、君は僕の野望を阻む唯一の防波堤だ!!」
だからこそ、僕は君を破壊する。
刹那、ダージスの”黒焔の双翼”が膨大なエネルギーを放つ。
周辺に撒かれたエネルギーは幾多の数に分散し、クロトに矛先を向ける。
殺せ、とダージスの命令が空間に響き渡ると同時、破壊の雨が降り注ぐ。
”神の力”を用いた、街一つを完全に破壊し尽くすであろう魔術。
到底、人間には対処が不可能な魔術に対し、クロトが次に起こした行動は単純なものだった。
「滑稽だ。─────────────────その程度の魔術で、この俺を停められると思っているとはな!!」
ただ、左腕を前に突き出すという、単純な挙動。
それだけで、破壊の雨はクロトを呑み込む寸前で爆ぜ、漆黒の空間に莫大な焔だけが撒かれた。
何の冗談だ、とダージスは驚愕と共に苦笑を浮かべる。
今の魔術は眼下で魔術師と戦っている”使徒”すら一撃で撃滅するほどの”神”が使役するに相応しい一撃だった。
それを、そんな絶対とも言える威力の魔術を、”神殺し”の魔術師は余裕と取れる挙動で防いで見せたのだ。
「脅威…。ふ、ふふ、ふはははは!! なるほど、僕の予想以上だよ!! ”神殺し”と呼ばれるだけはあるッ!!」
「光栄だ。贋作の神様にそんな言葉を戴けるなんてね」
漆黒の空。
爆風と轟音を響かせ、二人は依然として激突する。
魔術の世界の常軌を逸した魔術と魔術の激突は凄まじいエネルギーの余波を周囲に撒き散らす。
その状況で、ダージスは質疑の言葉を吼える。
「”賢者の矛”。君達は善意の連鎖の構築の為に戦い、その果てに撃滅された。結局、君達は何を為した!?」
「決まってんだろ。誰かの笑顔を、幸福を、命を護った!!」
「己を顧みず他者を優先する…。随分と歪な善意だ。それで何かを救えたと吼えるか、君は!!」
「ああ。現在だってそれは変わらない。俺はその為に多くを犠牲にしてきた!!」
愛を誓った人間を。
最愛の妹を。
共に正義を為すと誓った義弟を。
「だからこそ、俺に停まる事は許されない。何が阻んでも、俺は絶対に停まらない。例え、それが”神”だったとしても!!」
だから、と彼はダージスの姿を視界に捉え、逆に質疑の言葉を投げ掛ける。
”神の力”を身に納め、強大な力を手にした彼を。
「貴様の理想は全ての人間を救えるか!!」
「矮小だね。そんな理想論に取り憑かれているなんて。言っておくよ、犠牲を伴わない理想は存在しない!!」
だから何だ、とクロトは吼える。
ダージスの言葉を肯定した上で、彼は一切の迷いを見せない。
「俺は貴様の理想を認めない。その理想が犠牲を強いるなら、俺はそれを徹底的に叩き潰す!!」
「結構!! ”真実”を知らぬ者に僕の理想は理解できないさ!!」
「”真実”…?」
ふと、クロトは目を細める。
ダージスの述べた”真実”という言葉に引っ掛かりを覚えて。
一瞬の思考、それは一瞬の隙。
彼がその隙を見逃すはずは無く、”黒焔の双翼”が蠢く。
刹那、彼の右腕が朧気な妖しい光を放つ。
”神の力”で強化された、その右腕が。
「砕け散れ」
単調な言葉と共に、ダージスの姿が消える。
気配を感じさせず、凄まじい速度で何処かに移動した訳で無く、ただ消えた。
(空間魔術!!)
咄嗟に、クロトは死角である背後に勢い良く振り向いた。
だが、それも遅しと言わんばかりに空間魔術で彼の背後に現れたダージスは右腕を彼に振るう。
勝利を確信する凄絶な笑みを浮かべて。
「嘗めるなと言ったぞ、ダージスッ!!」
刹那の挙動で”神殺し”の魔術を以て右腕を強化し、彼はダージスの右腕の拳を間一髪で掴む。
どんな硬度の物質でも簡単に叩き潰す、その拳を。
その瞬間だった。
(─────────────────ッ!?)
彼の意識が唐突に揺さぶられる。
鼓動が一瞬にして高まり、全身から冷汗が流れ出す。
そして、揺さぶられる意識は何処かに引っ張られていく。
耐えども、それは無駄な行為となり、彼の意識は、
(…くそ。何なんだよ、こりゃあ…)
静かに消え去った。