コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Multiplex Cross Point 19話更新 ( No.830 )
- 日時: 2011/01/03 17:04
- 名前: インク切れボールペン (ID: uUme72ux)
浮遊感は消えていた。
瞳に映るのは、何の物質も存在しない白銀の世界。
其処に柚葉 クロトは忽然と佇んでいる。
「何なんだ、此処」
頭を掻きながら、彼は警戒を怠らず周囲を見回す。
ダージスの一撃を受け止めた直後、意識が寸断され、気が付いた時には此処だった。
此処が何なのか、幾つかの仮定は構築してある。
閉鎖次元への空間転移だとか、実は此処は天国だとか、色々と。
ふと、その思考は寸断される。
(…ッ!?)
白銀の世界が揺らぐ。
まるで、テレビのチャンネルが変わるかの様に。
刹那の瞬間に、白銀の世界の光景が、変わる。
粉雪が蕭々と降り注ぐ、純白の世界へと。
「本当に構わんのかね?」
唐突に声が聞こえた。
音源の方へ警戒と緊張を籠めて向いた彼が捉えたのは、初老の男性。
(セルゲイ・ディスコラヴィッチ!?)
見間違うはずが無い。
その初老の男性は確かにセルゲイだった。
そして、そのセルゲイが言葉を放った相手、その人物は、
「構わない。僕に選択肢は無いからね」
特徴とも言える緋色の髪と白衣を纏った青年。
諦めた様な力の無い微笑を湛えた彼を、クロトは知っている。
見間違うはずが無いのだ、先程まで戦っていた相手なのだから。
ダージス・シュヘンベルク。
”神の力”を身体に取り込んだ、その男を。
が、ダージスは付近に佇んでいるクロトに一瞥も与えず、セルゲイとの会話に専念している。
まるで、見えていないかの様に。
「深慮するべき時だぞ、ダージス。君ならば聡い選択が可能なはずだろう」
「聡い選択、ね。だから言っているだろう、選択肢など無いと」
ふと、クロトの脳裏に一つの答が浮かんだ。
この奇っ怪な状況に対し、筋の通る答を。
(”共鳴現象”、か)
同質の魔力同士が激突する事で起こる現象。
恐らく、その現象がダージスとクロトの間で起きたのだろう。
そして、この光景は、
(ダージス。奴の記憶か)
良く見れば、ダージスもセルゲイも現在より、少しだけ若く見える。
予想の範囲を出ないが、この光景は数年前のものだろう。
「…君の覚悟は変わらんか。解っているのかね、此処で私の言葉に背かねば、”奴ら”に利用されるだけだと」
「”奴ら”に利用されるのは癪だね。だが従わなければ、僕の愛する人が死ぬ。…解ってるだろ」
何処か寂しそうな微笑を湛え、ダージスは呟いた。
彼女の為ならば、僕は”奴ら”の道具になってやるさ、と。
「この先、忌避されし者として君は世界に記憶されるぞ。それでも構わんのか?」
「構わないさ。彼女の命を護れるならば」
「…。それは悲痛な覚悟だ、ダージス。だが、君は何故…」
蕭々と降り続ける粉雪。
セルゲイの瞳に映るのは、純白の光景と緋色の髪の青年。
「何故、君は其処まで己を捨てられるのかね…?」
理由なんて簡潔なものだよ、とダージスは微笑を湛え、彼の質疑に答えた。
ただ一つの答を。
「彼女を」
雪を纏った風が吹く。
クロトの眼前を真っ白に染めて。
再び意識が闇に沈む。
閉ざされる瞳、深淵に沈んでいく意識。
そんな状況で、漆黒の空での戦闘でダージスが述べた言葉を思い出す。
『結構!! ”真実”を知らぬ者に僕の理想は理解できないさ!!』
彼が述べた”真実”という言葉。
その意味は。
その真意は。
思考は完全に停まり、闇の底へ意識は沈んだ。
最後に聞こえたのは、ダージス・シュヘンベルクの言葉。
「護る事に、愛する事に───────────────────、限界など無いのだから」