コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Multiplex Cross Point 最終話更新予定 ( No.836 )
- 日時: 2011/01/04 12:35
- 名前: インク切れボールペン (ID: uUme72ux)
理解不能だった。
何を言っているんだと誰もがダージスの言葉を訝しんだ。
敵である者達を助ける、と言っているのだから、その反応は当然だと言える。
だが、ダージスは至って真面目に、
「既に、この建物には脱出を不可能とさせる”迷宮結界”という魔術が張り巡らされている」
という事は、とダージスは付け加え、ダージスは尚も語りを続ける。
この建物の爆発から逃れられない、と。
彼の言葉に、魔術師達は聞き入っていたが、雅依 輝星が彼に噛み付く勢いで言葉を投げ掛ける。
「その爆発も、魔術も、お前が仕掛けたんだろ!!」
「残念。僕はそんな陳腐な罠は仕掛けないさ。」
だったら誰なんだよ、と彼は”檻”の中で尚も吼え続ける。
ダージスは彼の言葉に静かに口の端を吊り上げ、意地の悪い微笑を浮かべた。
「正式な名前までは僕も知らない。だが、一つだけ言える事があるよ」
彼は、”Child Soldier事件”で己の運命を狂わされた者達を見据えた。
威牙 無限、月架 蒼天、そして他の者達を。
彼らを一瞥した後、ダージスが放った言葉は、彼らの心臓を跳ね上がらせるに充分な言葉だったと言える。
「”Child Soldier事件”。あの惨劇を画策し、裏から操作した者達さ」
息が停まった。
誰もが息を停め、その言葉を脳裏に反芻し、表情を驚愕に染め上げる。
予想通りの反応に、ダージスは更に言葉を続けた。
「今回の事件も彼らの”実験”さ。僕が被験体の、ね」
そして、この実験と共に”奴ら”は僕と君達の抹殺を画策している。
”奴ら”は君達の行動パターンを知っていたからね。
だからこそ、この本拠地で実験を行ったのさ。
”迷宮結界”と、遠隔操作で起爆する”爆弾”を設置して、とダージスは語った。
それを語った上で、彼は言う。
真摯な表情で、強い意志を感じさせる瞳に魔術師達を捉えて。
「君達は死ぬな。此処で死ぬべき人間は僕だけだ。だから、君達を逃がす」
ダージスの言葉に、誰もが沈黙する。
恐らくは、彼は全てを見越していた。
自分がクロトの一撃に敗北させられる事も、何もかも。
ふと、沈黙の中、結月がダージスに言葉を掛ける。
「何で…。私達を脱出させられるのに、自分が脱出しないの!?」
誰だって、他者よりも己を優先するはずだ。
それでも、彼は命を投げ打ってまで、魔術師達を助けようとしている。
彼女の疑問は至極当然な質疑だった。
「僕は罪を繰り返してきた。”Child Soldier事件”。あの事件で”奴に”に従った」
そして、僕は多くの子供を死地に送り、死なせてしまった。
停められなかった、誰も。
「僕はあの時、あの瞬間に”奴ら”に反旗を翻してでも子供達を救って見せるべきだったッ!!」
後悔。
ダージスの言葉から感じる感情、その一つだけ。
「罪を犯せし者はいつの日か断罪を受ける。それが今なんだよ」
哀しみを感じさせる微笑と頬を伝って落ちる涙。
死ぬという事に恐怖を持たない人間はいない。
それでも、彼は敢えて、その選択を取った。
この瞬間が、断罪の時であると解っていたから。
「…さぁ。別れの時間だよ、諸君」
その言葉に呼応する様に”檻”を光が抱擁する。
何の光景も見えなくなり、聞こえるのはダージスの声だけ。
「転移位置設定完了。術式構築完了。空間魔術───────────、ぐッ!?」
言葉は途切れた。
口から、血の塊を吐き出した為に。
(限界…か。最早、僕の魔力で”神の力”は抑えていられない。そして、)
”神の力”を抑えている魔力を、この空間魔術に回せば、僕は死ぬ。
内に納めた”神の力”に身体を喰い破られて。
現実に迫ってくる死を感じ、彼は恐怖を抱いた。
しかし、
(何を迷ってるんだ、ダージス。僕の命は彼らの命を助ける為の布石!! 躊躇う理由など存在しない!!)
天に向かって、彼は血に塗れながらも吼える。
空間魔術発動、と。
刹那、ダージスの魔術は発動され、”檻”の中の魔術師達は強制的に転移させられて行く。
一人、また一人、と。
そして、最後の一人が消えると同時に、彼は床に仰向けに倒れた。
爆発は既に其処まで迫っている。
「ああ…。星が綺麗だ…」
今こそ、断罪の刻。
閉ざされた瞳から、自然と涙が流れた。
「…ごめん。君との約束、破っちゃいそうだ。最後に、君に逢いたかったよ」
脳裏に浮かぶ、愛を誓った一人の少女。
さよなら、と最後に彼はその愛しい少女の名前を呟いた。
「────────────────────アイリス」
刹那。
断罪の刻を迎えた青年は、爆発の焔の中へと消えた。