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Re: Multiplex Cross Point 最終話更新 ( No.837 )
日時: 2011/01/04 14:06
名前: インク切れボールペン (ID: uUme72ux)

結局、俺達は奴の望んだ結末を停められなかった。
漆黒の闇の中、荒川 冬丞は”灰燼の風”の本部付近の森の中で静かに呟いた。
元から定められた結末を変えられなかった、そんな現実に打ち拉がれて。

「ダージス様は死んだのですね」

彼の後で木に背中を預けている満身創痍の荒川 琴音は、ぽつりと呟いた。
その頬に涙を伝わせて。

「…奴は己の役目を完遂して見せた。次は俺達の番だ。俺達の」

陳腐な言葉だ、と冬丞は思う。
幾ら感情を籠めても、幾ら言葉を重ねても、実の妹の涙を停められないのだから。
それでも、”真実”を胸に戦った一人の戦友の為に、冬丞達は前に進まねばならない。
ふと、涙を流し続ける荒川 琴音の頭を撫でた者があった。
肩に掛かる程度の薄金色の髪の可愛らしい容姿の少女。

「…、ミリー先輩」

「哀しいなら泣いたら良いんだよ。溜め込んでたら破裂しちゃうもの」

その瞬間。
琴音はミリーの胸に縋って泣き叫んだ。
一途に慕った恩師の死を前に。
冬丞は琴音の泣き叫ぶ姿を捉え、自分の無力を悔やんだ。
実の妹の涙も拭ってやれない、無力な己を。

「…悔やむな、冬丞」

ぽん、と軽快な挙動で冬丞の肩に手が乗った。
振り向き、冬丞は己の肩に手を乗せた人物を捉える。
白髪の混じった黒髪の初老の男性、彼は。

「セルゲイ殿…」

「後悔は過去に置いていけ。前に希望を見いだせ。それが出来ないなら、絶望に呑まれるぞ」

満身創痍の身体で、セルゲイは優しさを感じさせる微笑を湛えた。
痛ましい満身創痍を隠すかの様に。

「…ダージスは死んだ。我々は戦闘前に彼から言い渡された命令に従って、本部を抜けた」

魔術師達がダージスに挑んで行った、その隙に。
”荒廃せし失楽園”の魔術師達が”造られし天上”に侵攻する以前から彼はそれを命じていた。
荒川 琴音に、荒川 冬丞に、ミリー・シャルロットに、セルゲイ・ディスコラヴィッチに。
後の展開を全て予測した上で。

「諸君、我々は彼の意志を継ぐのだ。これは序章に過ぎない。真の戦いは、これからなのだ」

往くぞ、とセルゲイは言う。
この戦いを操ってきた者達への反撃を成すが為に。

「此処から我々の反撃は始まる」

深淵の闇に抱擁される森の中。
”灰燼の風”の新たなる物語が始まりを告げる。