コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Mistake . ( No.21 )
- 日時: 2010/09/04 05:31
- 名前: 凜 ◆zyGOuemUCI (ID: hqWYiecP)
#05 ( 作戦 )
「とにかく今は、彼女ちゃんの機嫌をどうやって直すかでしょ! 違う!? 私何か変なこと言ってる!?」
突然すごい剣幕で怒鳴りだした愛沢に怯えながらも、俺は小さな声で
「変なこと言ってません。その通りでございます」
と返事をした。またあの強烈なハイキックを食らう事だけは避けたかった。
今度食らったら確実に骨二、三本は軽く折れる。
「とりあえず、プレゼント攻撃ね。女はロマンチックサプライズとプレゼントに弱い。とりあえず光りモノ渡しとけ。安心して、光りモノに外れはないはずよ」
「光りモノって……鯖とか?」
「鯖貰って嬉しいのは多分寿司屋の娘だけだ。それともなんだ、お前の女は寿司屋の娘か」
低いトーンで冷静につっこまれると、さすがに恥ずかしい。いっそ罵ってくれ。誰もが引くくらいの大声で罵倒してくれ。って俺はマゾか!
……違う! そんなノリツッコミがしたいんじゃないんだ。里子の機嫌をどうやって直すか、だ。冷え切った関係をどう修復させるか、だ。いや、冷え切ってねえし。ちょっと墓穴掘っただけだし。
って何自分で自分に言い訳してんだ、俺。
「ちょっと、なに死後硬直みたいに固まってんの?」
「死んでねえ」
「残念」
「……え? ちょっと待て。残念って何だ残念って」
「何が良いかしら。ネックレスとかいいかもしれないわね」
見事なスルー……というか無視? シカト? 立派な嫌がらせだぞコラ!
* * *
「ちょっともー、おいコラヘタレ。何であんな雑用にこんなに時間かかるのよ」
「ざけんな、お前が面倒くさい事ばっか俺に押し付けるからだろ! あの仕事の最短スピードで終わらせたぞ俺は」
「"押し付けた"だなんて。やだわ、人聞きの悪い。貴方がアクセサリーなんて分からないから一緒に行って選んでください瀬菜様って言うから私は忙しいのにもかかわらず付いてってあげるから交通費代わりにこれをやってくださる? と言っただけで」
「誰も瀬菜様とか言ってねえだろ!」
そんな漫才の様な会話を繰り広げながらも、俺達は仕事の昼休みの間に有名なアクセサリーショップに向かった。
「……たっけー」
俺は正直、細くて真ん中にちょこっと小さいキラキラな石が付いただけのひょろっちい物が何故五万円ちょっともするのかと思ったが、そんなことを愛沢に言ったらまた説教されそうだと思ったのでやめておいた。
……そういえば里子は、こういうキラキラしたやつ好きだったな。宝石店とかの前を通る度、ガラスに張り付いて可愛い可愛い綺麗綺麗こんなの欲しい欲しいとか言ってたっけか。その度に俺はくだらないと思ってたけど。やっぱり女ってみんなこんなもん好きなのかな。
ふと隣を見ると、まるで並べられている宝石くらいにキラキラした瞳で楽しそうにアクセサリーをうっとりと眺める愛沢の姿があった。不覚にもその姿に、一瞬だが俺の鼓動が速くなった。
初めて会った時も思ったが、やっぱり愛沢は美人だった。それは愛する彼女との喧嘩の元だというのに、美人だと思ってしまう自分が情けなく思えてくる。それにもう愛沢の変人な部分は分かっているというのに。単純なのかな俺。
「ちょっと、何見てんの? あ、わかった。私の美貌に見惚れていたのね!」
「へへっ」と笑いながら言ったその表情も、つい可愛いと思ってしまい、俺は素直に「そうだよ」と言ってしまった。
愛沢は驚いて、大きな眼をさらに見開いた。ああ、"鳩が豆鉄砲を食らった様な"ってこういう顔のこというんだ。
「ば、ばっかじゃない? 彼女ちゃんに怒られても知らないからね。お前が美しいからだ! とか言って私のせいにしないでよね!」
愛沢は頬のみならず耳までも赤く染めて、綺麗な黒髪をふわりと靡かせ、隣のショーケースへと足早に向かって行った。