コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: Mistake . ( No.28 )
日時: 2010/09/04 01:20
名前: 凜 ◆zyGOuemUCI (ID: hqWYiecP)

#08 ( 被害 )

「柏木、どうだった? 彼女ちゃんの反応は」
「あ、愛沢」
 にっこりと微笑みながら聞いてきた愛沢に、俺はどう答えようか迷った。彼女より愛沢の方が似合ってた、なんて言えない。言ったらまた蹴られることは確実だ。
 「……うん、喜んでくれた。さんきゅ、愛沢」
 昨晩感じた違和感はそっと胸の奥にしまいこんで、俺もにっこりと微笑み返した。

* * *

 一通り仕事も終わったところで、右腕につけた俺のお気に入りのブランドの腕時計を見た。時間は午後一時。かなり腹が減った。そろそろ食堂に……。
「柏木、お昼行こう」
 ナイスタイミングで俺を昼食に誘ったのは愛沢だった。というか、俺はこの会社に愛沢くらいしか仲の良い人はいなかった。あ、俺と愛沢は果たして仲が良いのかといったらまた別の話だが。
 だってこの会社の同期といったら本当に愛沢ただ一人だけだし、俺と愛沢が新人で入社一年目だから後輩なんかもいない。上司もなんか怖そうな人ばっかりだ。というか怖い。みんな怖い。愛沢も怖い。
「ちょっと、また死にかけてんの?」
「愛沢、お前の思考回路が怖いよ……」
 その直後、愛沢にものすごい力で頭を叩かれた事は言うまでもないだろう。

「えっ」
 食堂に着き、食券を買おうと財布をあけたところ、お札が一枚もなかった。
 福沢さんは勿論のこと、樋口さんも野口さんさえいなかった。どういうことだ。
「どうしたのよ」
 愛沢が早く買いなさいよとでも言いたそうに俺の顔を覗き込んできた。しかしそんなことを訴えられても買えないのだ。この食堂は一番安いわかめうどんで千円もする。野口さんさえ財布にいない俺は当然何も買えない。
「なに、あんたもしかしてお金ないの? ……あ、そういえば昨日一ヶ月昼食百円生活とかなんとかぼそぼそ一人で呟いてたじゃない」
「あ……」
 そうだ。俺は昨日断腸の思いであの八万円プラス税のネックレスを買ったんだった。そんで一ヶ月は当分社員食堂で昼食を食べられないということになったんだった。
「……コンビニ行ってくるから、席とっててくれ」
「りょうかーい。行ってらっしゃーい」
 百円じゃサンドイッチも買えねえとがっくりする俺とは裏腹に、やけに楽しそうに俺をコンビニへと送り出した愛沢が憎かった。