コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Mistake . ( No.35 )
- 日時: 2010/09/12 22:34
- 名前: 凜 ◆zyGOuemUCI (ID: hqWYiecP)
#12 ( 愛沢か閻魔か熊 )
「うーん……愛沢はもうちょっと言葉をオブラートに包んだ方がええで? なんや愛沢の言葉って殺傷能力あるから」
峰岸先輩が呆れたように笑いながら言う。
本当だ。まさにその通りだ。俺は何度愛沢の言葉に心をへし折られたことか。いや、もうへし折られたどころか粉々だ。粉々マイハートだ。……なんだそれ。
かっこつけようと自分の心に名前を付けてみたところ、果てしなくダサくなった。ああ、俺も愛沢のこと言えないじゃないか。ネーミングセンス皆無だ。
考えれば考えるほど阿呆な方向に行ってしまう俺の思考回路をストップさせるように、俺の右隣にいる愛沢から放たれた裏拳が顔面にクリーンヒット。
「ないですよ。だってこの柏餅、何度罵っても死んでませんもん。往生際悪いったらありゃしない」
あ、柏餅って俺のことか。……いやいや、問題はそこじゃない。しっかりしろ俺。同僚の暴力を日常茶飯事のように受け流すな。
「愛沢……! もしかしてお前、罵っても死なないからハイキックやらローキックやら裏拳を俺に……?」
「あ、バレた」
「悪魔どころやないな。閻魔か」
「冷静に分析してないで助けて下さい峰岸せんぱぁーい!」
その瞬間、右頬に衝撃が走る。ああなるほど。俺は愛沢に平手打ちをされたんだな。
朦朧としてきた意識の中、微かに愛沢の声で「悪役呼ばわりしてんじゃねぇよ!」と聞こえた気がした。酷い。というか、どっちかというと峰岸先輩のが悪役呼ばわりしてたのに。閻魔って言ってたのに。
「ちょっとしっかりしなさいよ。眠いの? あ、往復ビンタしてあげようか? 良い眠気覚ましになるわよ」
峰岸先輩と別れた後、ふらふらと歩いている俺に愛沢は俺の顔を覗き込みながら言った。ちくしょう、こんな性悪なのに相変わらず顔立ちは美しい愛沢が憎くて憎くてたまらない。
愛沢は"してあげようか?"と一応聞いてはいるが、やる気満々だ。右手を大きく振りかぶっている。
実況するのであれば……、愛沢選手第一発振りかぶってー叩きましたっ! 柏木選手の左頬にヒット! いやー良い音がした! おーっとこれは? 柏木選手立ち上がれません、KOです! 往復ビンタをするつもりであった愛沢選手ですが、柏木選手一発でKOです!
"叩きましたっ"のところからフィクション……というか、愛沢の往復ビンタしてやろうかという申し出を断らなかった時に起こるであろう事だ。
そんな予想通りにKOされるのは真っ平御免というか人生終わりにするつもりはまだまだないので、俺は込み上げる怒りやら何やらを抑え込みながら、精一杯の丁寧さで断った。
「結構です」
「なによ、人の好意を簡単に断っちゃって」
「お前の場合"人"の好意じゃなくて"熊"の好意だろ?」
「調子に乗るな柏餅」
その後はあの実況通りになり、俺の左頬には痣ができた。その日は夕食を食べるのもキツいくらい痛かった。寝返りすらうてなかった。いっそのこと死んでやろうか。そして愛沢改め熊のことを一生呪ってやろうか。
そんな危うい考えをするようになった俺はまだ二十三歳である。