コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Mistake . ( No.48 )
- 日時: 2010/10/09 17:41
- 名前: 或 ◆zyGOuemUCI (ID: hqWYiecP)
#16 ( 鉢合わせ )
「えーっと……特別必要な物とかは無いよな。じゃあこれで良いかな?」
如月先輩の指示で、とりあえずそれぞれ準備をしてから一階ロビーの受付の前で待ち合わせることになった。
念のため鞄の中に入れた物を一つずつ確認する。携帯は入れたし、財布も一応入れたし……。うん、大丈夫そうだ。
「如月先輩も終わったかな……」
準備といっても鞄の中に必要最低限の物を入れるだけだから、さほど時間はかからないだろうし。
右手首につけた腕時計を見ると、準備をし始めた時から十五分経っていた。……結構経ってるな。もしかしたら如月先輩待ってるかも。やばい。
「愛沢、俺ちょっと外回り行かなきゃいけなくなったから、昼食は今日は一人で食ってくれ」
「りょうかーい。なんならそのまま一生帰ってこなくても全然大丈夫よ」
相変わらず非情な言葉を吐く愛沢につっこむ余裕もなく、俺は小走りで受付に向かった。
受付に着いてきょろきょろと周りを見渡してみたが、如月先輩の姿はない。良かった、とりあえず待たせてはいないらしい。
俺はほっと安堵のため息をついた。あの妖しい如月先輩のことだ。待たせたりしたら何をされるか分からない。
とりあえず急いで来たせいで乱れた呼吸を整えていると、正面入り口の右隣にある真っ白な螺旋階段から見覚えのある人が下りてきた。あれは……!
「峰岸先輩っ!」
俺の声に気がついたのか、峰岸先輩がこちらを見る。
「おお、柏木やん」
先程まできりっと引き締めていた峰岸先輩の口が、ふっと緩んだ。
それまでゆっくりと一歩一歩踏みしめるように下りてきていたが、こちらに向かおうとしてくれているのか、階段を下りる足が素早く軽やかになった。
それでも峰岸先輩はすれ違う上司と思われる人に「お疲れ様です」と会釈しながら歩いているせいか、なかなかこちらに到着しないが。いや、でも見習うべき行動だと思う。スピードはともかく。
「柏木。どないしてん、こんなとこで。仕事は? さぼったらあかんで」
「さぼってないですよ。如月先輩と、外回りに行くんで、ここで待ち合わせてるんです」
言った瞬間、峰岸先輩が露骨に嫌そうな顔をした。……あれ、もしかしてなんか地雷ワードだったのかな。それまで緩んでいた峰岸先輩の口元が徐々に硬直し始めた。
「み、峰岸先輩?」
苦笑しながらも安否確認をしてみる。あ、体が少し跳ねた。とりあえず大丈夫か?
「……あ、すまんすまん。なんやったっけ、ムササビ? ムササビと外回り行くんかー。大変やなあ柏木も。せめて人間やったらなぁ」
「いや、ムササビじゃないです。如月先輩です。きーさーらーぎ」
「お前何言うてんねーんっ、ムササビやろ? ムササビ。如月とかこの世に存在せえへんっちゅーねん、ははは」
"ははは"と言っている。笑っているんではない。"ははは"と言っているんだ。だって目の奥が全然笑ってない。
──全然大丈夫じゃなかった。大変だ! 峰岸先輩が壊れた!
「し、しっかりしてください先輩!」
「柏木君何言ってんの?」
突然後ろから、聞き覚えのある声。この声は。
「き、如月先輩!?」
振り向くと、きょとんとした顔の如月先輩がいた。これはちょっと、いや大分やばいんじゃないか? 後ろの正面には壊れた峰岸先輩が。目の前にはムササビ改め如月先輩が。
「峰岸……」
「ムササ……如月」
修羅場、絶体絶命、最大のピンチ。どれも当てはまるぞ。どうするどうなる俺! 自分の身にも危険が及ぶかもしれない! というか確実に及ぶだろう!