コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Mistake . ( No.51 )
- 日時: 2010/10/10 22:08
- 名前: 或 ◆zyGOuemUCI (ID: hqWYiecP)
#17 ( 二人 )
心の中で"どうしよう"と、もう百回くらいリピートしてると思うんだが。いつになったらこの物理的にも精神的にも板挟みな状態から解放してくれるんだろうか。
「せんぱ、い……」
必死に声を出してみたものの、自分でもわかるくらいに語尾が震えてた。俺ってばなんてチキンなんだ。恥ずかしくないのか男として。
自分で自分に喝をいれても、やっぱ怖い。どうしても怖い。俺これからどうなるんだろう。ああ恐ろしや。
これからの俺の人生を考えだしたところで、それまで無言で睨みあいのような事をしていた峰岸先輩、如月先輩の口が開いた。
「なんやねん」
「なんやねん」
二人同時に言った。見事にハモった、というべきか。それに二人とも、ものすごい低い声で。重圧感たっぷり。
ハモった事が相当嫌だったのか、峰岸先輩は大きくため息をつき、如月先輩は舌打ちをした。どちらも嫌悪感を隠す気なんてさらさら無いらしい。ため息も舌打ちも、ちょっと大げさじゃないかと思うくらいだった。
あの優しかった峰岸先輩はどこへ行ってしまったんだ。っていうか如月先輩もトレードマークとも言えるにこにこ笑顔はいずこへ。
二人とも眉間にしわを寄せて、峰岸先輩は顎を上げて上から見下すように如月先輩を睨み、如月先輩は昔のヤンキーのように顎を引いて下から見上げるように峰岸先輩を睨みつけている。睨み方まで対称的なのか。この二人は。
もうなんか二人でやっててくれって思う。俺を巻き込まないでほしい。申し訳ないが宥める能力も煽る能力も生憎持ち合わせていないんだ。
「お前、関西弁出てんで? あんなに嫌やっちゅーとったんに、なあ?」
嘲笑うように「はっ」と鼻で笑いながら煽るような言葉を発したのは峰岸先輩。
「うっさいんじゃタコ。お前やって、何なんあの無理やり直しました感丸出しの標準語。気持ち悪っ」
わざとらしく肩をすくめて右手で左肩を、左手で右肩を上下に擦りながら言ったのは如月先輩。どうやら体で「気持ち悪っ」を表現しているようだ。
「ああ、そうやで? やって無理やり直したんやから。当たり前やん。大体俺はタコちゃうし。人間やし。お前どんだけ視力悪いん」
「あほか、両目ともA判定やっちゅーねん。ちゅーかお前背縮んだんちゃう? なんかお前の顔よー見えて苛々するわ」
「お前が相変わらず背低いからあかんねやろ。お前がいい加減百七十くらいなってくれへんと俺が年取って縮んでもっと顔よー見えて苛々すんねんから早く伸びてくれへんかなぁ、おチビちゃん」
まさに"ああ言ったらこう言う"って状態だ。最早誰にも止められないんじゃないか。……とりあえず身の安全は確保できたものの。
俺は、それまで峰岸先輩と如月先輩の間というかなり危険な場所にいたのだが、二人が言い争いを始めた時ぐらいから気付かれないようにゆっくりと正面入り口の方へ逃げた。
何故そこへ逃げたのかというと……まあ、その……いいや、ぶっちゃけよう。警備員さんがいるからだ。
いざとなったらこのかなり強面な警備員さんが助けてくれるだろう。もし万が一助けてくれなかったら職務怠慢だし。うん、きっとこの警備員さんは顔によらず真面目な人なんだろう。信じてるぞ俺は。
如月先輩を放置して一人で外回りに行くわけにもいかないので、とりあえず警備員さんの隣で傍観しておくことにした。あの喧嘩に終わりがあるのかは謎だけど。