コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Mistake . ( No.56 )
- 日時: 2010/10/14 20:34
- 名前: 或 ◆zyGOuemUCI (ID: hqWYiecP)
#18 ( 終わりなき二人 )
結局、二人の喧嘩はあの後殴り合いになり強面警備員さんに止められた。そして上司に呼び出され、たんまり一時間お説教をくらったらしい。
そのせいで……いや、そのおかげでと言った方が俺の心境的には正しいな。俺と如月先輩で行くはずだった外回りは別の人に任された。
突然仕事が無くなって、俺はどうしていいのかわからず戸惑っていると、先輩方の上司さん直々に謝られた。馬鹿達のじゃれ合いに巻き込んでしまって申し訳ないと。
そんな謝罪の言葉を述べられてもどうリアクションしていいのか分からず、とりあえず苦笑いしながら「大丈夫です」と言っておいた。精神的な疲労が大きすぎて全然大丈夫じゃないわけだが。
「お前もう消えてまえ」
峰岸先輩に殴られた右頬を右手で押さえながら、ものすごい憎しみがこもった声で如月先輩が言った。
「せやなぁ、それはお前殺してからにするわ」
如月先輩に殴り返された左頬を左手で押さえながら、こちらも憎しみがこもった声で峰岸先輩が言った。
この人達は一時間説教されたぐらいでは懲りないらしい。じゃあもう一生説教され続ければいいのに。……あれ、なんか俺呆れすぎて愛沢みたいになってる。
「俺がお前に殺されるわけないやん。返り討ちにしたるわ」
「そらこっちの台詞じゃチビ。あー、なんやお前殺して捕まるっちゅーのも嫌な話やな。ほんならアレや。一日ごとに一センチずつ縮んで百六十九日後に消えてなくなれ」
「何の呪いやねん」
「あの、僕もう帰っていいですか?」
終わりのない喧嘩が続いてまた殴り合いになったりしたら俺には止められないから、とりあえず帰らせてもらいたい。身の安全第一だ。それにもう外回りにも行かなくて良いわけだし。この二人と一緒にいるのは危険なだけだ。
俺は内心かなりビビりながら尋ねてみたのだが、意外にも峰岸先輩も如月先輩も笑って返してくれた。……ただ、二人の喧嘩は俺がいなくなってもまだ続いていると思う。
「こんなチビと一緒にいたくないやんなぁ。わかる。ものっそいわかる。ええよええよ、帰って食堂でも行き?」
「腹黒と一緒におったら腹黒うつるわな。早く帰って浄化した方がええで」
「なんや腹黒ってお前のことか」
「なんやチビってお前のことか」
という風に、お互いを罵りながら送り出してくれたからだった。
早くその場を立ち去りたくて、走って自分の課に戻った。振り返ったりはしなかったが、嫌でも聞こえてくる関西弁の罵り合いは果てしなく続きそうだった。もういいや、俺には関係のないところで果てしなくやっといてくれ。
この二人に挟まれて危険にさらされながら過ごすよりは、愛沢の非情な言葉を聞いておくほうがまだ少し気が楽だと思う。
「愛沢と居て気が楽だと思う日が来るなんて……。人生わかんないもんだな」
廊下を軽く走りながら、俺はぼそっと自嘲気味に呟いた。