コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Mistake . ( No.62 )
- 日時: 2010/10/17 12:30
- 名前: 或 ◆zyGOuemUCI (ID: hqWYiecP)
#19 ( 呼び止め )
「あれ。帰ってくんの早すぎじゃないの? せっかく隣に誰もいなくてすっきりしてたのに」
「……死ぬかと思った」
愛沢が「は?」と目で言っている。だがしかしもう説明する気力もないからここはスルーの方向で。
とりあえず俺はイスを引いて腰かけ、大きく息を吐く。ほっと一息みたいな。……なんかもう息をつく暇も無かった。あの二人と一緒に居ると。目の前で喧嘩が繰り広げられるということは、こんなにも気が滅入るものなんだな。
「息ついてる暇あるんだったら仕事やりなさいよ仕事。とろいのよあんた」
目で訴えた「は?」をスルーされたからか、明らかに機嫌が悪くなった愛沢は俺に冷たい視線を向けてくる。おー怖い。
* * *
「何かやらかしたのか? あいつ」
十二時頃、いつも通り俺と愛沢が社員食堂に向かおうとしていると、愛沢が課長に呼び止められた。愛沢自身も何故呼びとめられたのか分かっていなかったようで、焦ったような顔をしていた。
時間がかかるかもしれないから先に行って食べてて良いと愛沢に言われた俺は、課長室に入る愛沢を見届けてからも、まるで迷子になった子供の様に三分程だがその場に立ち尽くしていた。
だが落ち着いて考えてみると俺が待っていたところで愛沢には気持ち悪がられるだけなので、大人しく一人で社員食堂に行くことにした。
「今日はー……。カツ丼? うなぎ? 節約してわかめうどん? うーん……」
食券販売機の前で何を食べるかとか考えてはみたものの、やはりどうしても愛沢の事が気になって、なかなか決められない。
なかなか決めない俺に苛立ったのか、後ろに並んでいる人の舌打ちが聞こえてきた。いかん、ここはとりあえずわかめうどんだ。
野口英世さんを食券販売機のお札投入口に入れ"わかめうどん"という文字の下の赤く光ったボタンを押した。
「……来ないじゃん」
社員のみおかわり自由のコーヒーを飲みながら、なんとなく愛沢を待っていること一時間。愛沢はまだ来ない。本当に何やらかしたんだあいつは!
もう愛沢は来ていて、俺が見つけてないということもこのだだっ広い社員食堂では十分有り得るのだが、いつも同じ一番奥の窓際の席に座っているから可能性は低いと思う。
だが、この会社では昼食は一時間以内で済ます事と決まっているからこれ以上愛沢をここで待つことはできない。
「戻るしかないか」
俺は赤色のギンガムチェックのプレートにわかめうどんの丼とコーヒー専用の白いシンプルなマグカップをのせ、食券販売機横の返却口に返した。
課に戻る自分の足が心なしかいつもより速い気がする。……なに心配してんだろう、俺は。あんな極悪非道な愛沢だぞ? どうなったって構いやしねぇだろ柏木 凌太。
──ただ、ちょっと。ほんのちょっとだけ、嫌な予感がするだけ。