コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re:   Mistake . ( No.81 )
日時: 2010/10/30 23:40
名前: 或 ◆zyGOuemUCI (ID: hqWYiecP)

【Special Episode】
#01 ( 待ち合わせ )

「さみー……。おっそいわ、何してんねんあいつ」
 十二月六日。自分が勤める会社の正面玄関前で、寒さに身を震わせながらある男を待っとった。
 "正面玄関前で待っとけ"という短いメールが届いたのはもう三十分も前の事や。
 前の俺やったら苛立って苛立って仕方がない、やけに上から目線なメールも、こう毎年毎年送られてくるとどうでもよくなってくるわ。"慣れ"って怖い。
 ふと空を見上げたら、まだ夕方五時やのに薄暗かった。
 ……冬は日ぃ暮れんのほんま早いな。
 そのまま何気なく空を見とったら、自動ドアの開く音がした。自動ドアの方に視線を移す。
「すまん、待った?」
 全く悪気が無さそうにへらへらと笑いながら出てきた男はメールを送った張本人、如月 翔。
「何やそれ。待ち合わせに遅れた彼氏か」
「待ち合わせに遅れたエリートサラリーマンじゃぼけ」
 何がエリートじゃ、とつっこみたかったけど、何やめんどくさくなってやめた。ちゅーか遅れたと思ってんねやったら謝れや。
 イラっとしたからわざとぶすくれた顔をしてみたけど、如月に「そんなんしても可愛くないでおっさん」と言われたからすぐやめた。

「ちょお、手」
「あ?」
 いきなり意味分からへんこと言うから、思わずヤンキーみたいな声を出してもうた。
 あかんやん。今更ヤンキーて。それこそ寒いわ……。ちょっと、ほんまにほんのちょっとやけど反省した。
「片方でええから手ぇ出せ」
 如月は俺のヤンキー声には何も言わず、ただ手を出せと言ってくる。
 だいたい、自分はコートのポケットに手ぇ突っ込んどるくせに何言うとんじゃこいつ。手ぇ出したら寒いやろがい。
 考えるとまたまたイラっとした。けどそこは俺も大人やからぐっと我慢して、左手を手の平を上にして如月の前に出した。
「ん、ええ子やなぁ怜ちゃん」
「きしょい。はよせえ」
 満面の笑みで言うた如月に多少恐怖を感じた俺は、如月を小さく罵倒しながら急かした。
 如月は何故か嬉しそうに、握った右手をコートのポケットから出した。そのまま右手を俺の差し出した左手の上に置き、ぱっとひらいた。
 瞬間、手の平に違和感が。物を落とされた? やけど如月のひらかれた右手が上にあって確認できへん。
「うわ、ちょっと手ぇ出しただけやのにめっちゃ冷たなるなぁ。……あ、鳩」
 そう言って如月は右手をポケットに戻して、俺を置いて軽い足取りで鳩が集まっている噴水の方へ駆けてった。
 無意識に如月の手を追ってしまっとった視線を、自分の手の平に戻す。
「……またコレかい」
 見た瞬間、思わず呟いてもうた。正直もう見飽きたっちゅーねん。
 手の平に落とされた物は、茶色ベースに五円玉が描かれた小さな袋。赤色で"ごえんがあるよ"と書いてある。所謂、五円玉チョコ。
 ──ほんまよう買うわ。二十五にもなって五円玉チョコ持ってレジ並ぶんむっちゃ恥ずいやろ……。
 五円玉チョコを握りしめ、噴水の近くで鳩を眺めとる如月に駆け寄る。
 何故か俺が如月の隣に着いた途端、鳩が数羽飛び立っていった。如月は残念そうに「あーあ」と声を発した。
 ちょっと申し訳なく思ったけど、如月はあんま気にしてへんみたいやしええか。
「何年前からやったっけ」
 若干気まずくなった空気を変える為、如月にそう尋ねた。
 俺の質問に如月は鳩の方に駆けて行った時少し乱れた前髪を整えながら、めんどくさそうに答えやがった。
「九年位前からちゃう?」
「もうそんな経ったか、あの日から」
 月日が経つんは早いなぁとおっさんくさい事を思いながら、先程貰った五円玉チョコの袋を破り、中に入っている実物より少々大きい五円玉の形をしたチョコを口に入れた。