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Re:   Mistake . ( No.110 )
日時: 2010/11/23 20:18
名前: 或 ◆zyGOuemUCI (ID: hqWYiecP)

【Special Episode】
#06 ( 絶望の朝 )

 ──俺がプレゼントを渡したあの日から、少しずつ、だが確実に如月との距離が縮んでいった。
 九月には一緒に弁当食うのは当たり前になったし、十月には授業で分からない事を教え合ったりするようになった。
 十一月には、席が隣っていうこともあり、暇があればすぐ雑談に興じていた。意外と話が合うし、変に気を遣うこともなく。たまに小さな口喧嘩もするけど、すっかり良い友達になっていた。
 そして今日。十二月六日。昨日、何気なく何処に住んでいるのか聞くと、家が近い事が判明し、俺が如月の家まで迎えに行って一緒に登校することにした。
「ちょっと早く出すぎたか」
 いつもより三十分も早く家を出た事を少し後悔した。いくら迎えに行かなあかんからって、近所やしもし分からへんくても電話して駅で待ち合わせすればええし……。
 後悔してもどうしようもないとけじめをつけ、ワイシャツの胸ポケットから生徒手帳を取り出し、表紙と一ページ目の間に挟まれた丁寧に四つ折りにされた紙を抜きだす。その紙を開くと、かなり雑な地図とマンション名と部屋番号が書かれていた。
「ここらへんやよな?」
 きょろきょろと周りを見回すと、マンションが多く建ち並んでいた。……ほんまに近いな。まだ十分も経ってへんで?
 ちゅーか、こんなにマンションばっかやと探すのめんどいがな。外見の特徴とかも書いとけっちゅーの。
 ぶつぶつと文句を言っていると、突然後ろから右肩を軽く叩かれた。
「ひいっ!?」
 驚いてつい奇声を発して振り向くと、こんがりキツネ色に焼けた食パンを銜えた如月が、何故か顎を引いて上目使いをしながら立っていた。更に"なに変な声出してんの?"とでも言うように首を傾げている。
「お前はどこの少女漫画の主人公や」
 これで曲がり角でごっつんこー! でそのぶつかった相手が転校生で、学校で再会して「あ、あの時の!」とかなったらそらもう恋愛フラグ立ちまくりや。あー、くそつまらんお約束の展開や。
「えへ、可愛いやろ?」
 ……ああ、全然ちゃうかったわ。ごめんなさい少女漫画の主人公さん。こんなナルシストちゃうわな。いやほんと申し訳ない、こんなやつと重ねてもうて。
 ナルシスト発言をした如月に、思いっきり冷たい視線を向けてやる。が、残念ながら食パンを食べるのに夢中でもう何も見えてへんみたいや。なんて幸せなやつなんや。

「如月さん如月さん」
「なんだい峰岸くん」
「やばくないですかこれ」
 教室の黒板に赤チョークで大きく書かれた文字を眺めながら、俺と如月は笑っていた。何も面白い事なんて書いてへん。……恐ろしすぎて何が何だか理解できんで、笑ってもうてるだけ。
 "一限目数学小テスト二十五点以下居残り"そんな残酷すぎる言葉が、大きな黒板の八割を占めるぐらい大きな字で記されていた。
 小テストはいつも一問一点の五十点満点やから、二十五点以下っちゅーことはつまり半分以下できへんかったらあかんってこと。半分以下。未満やなくて以下。
「サプライズゲストならぬサプライズテスト?」
 上手いこと言ってる場合ちゃうやろ俺。今すぐにでも教科書とノート開いて勉強せんかいあほ! 昨日、一応パラパラとノートを読んで……見てはいたが、何一つ頭に入ってへん。
 隣にいる如月を見ると、まさに"顔面蒼白"だった。顔に血の気がない。ちゅーかこいつ生きとるんか? 死んどるんちゃうか?
「つっこむ気力も無いし、笑えへんし、俺はどうすればええのん?」
 あ、生きてた。けど相変わらず血の気がない。唇とか、もうすごい見事に紫色や。
 どうすればいいの、と聞かれたなら俺が言うべき答えは一つ。
「勉強、しよか」
「……うん」
 如月は掠れた声で答えた。
 そうや。手遅れやろうと何やろうと、やらないよりは良い。もう無理やって諦めるなんて。だめ、絶対。