コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Mistake . ( No.131 )
- 日時: 2010/12/13 21:41
- 名前: 或 ◆zyGOuemUCI (ID: BojjKUtd)
【Special Episode】
#08 ( イン・ゲームセンター )
「相変わらず騒がしいな」
自動ドアが開いた途端耳に入る大きな音に、俺は思わず顔をしかめて呟いた。
俺達が通う高校から歩いて十分くらいにあるゲームセンターは外から見るとわりと大きく感じるが、一転、中に入ると対戦ゲームや所謂"UFOキャッチャー"と呼ばれる機械が所狭しと並んでいて、人とすれ違うのが困難なくらいや。
そのゲームや機械はどれもピンクやら黄色やら、いかにも目に悪そうな蛍光色のキツい光を発していて、暫くその場に居ると慣れてくるが、最初に見た時は目を閉じてまいそうになる。
更に、何て言うてんのか分からへんような題名不明の曲がかなりの大音量で店内に流れていて、そのせいで自然と声も大きくなるのか中に居る人達の話し声も入り混じり、ただの騒音でしかなかった。
「もう一時間も遊べへんけど」
如月がまるで拗ねた子供みたいに残念そうに言ったのが面白くて、何か俺が悪いわけでもないんやけど申し訳なく感じ、俺は精一杯の優しい声で言った。
「まあ、ええんちゃう? ゲーセンって時間が長くなるのに比例して使う金も多くなるもんやし」
「でも、せっかく来たのに」
そう言って如月は唇を尖らせる。……めんどくさいな、こいつ。無駄使いせんでええやんって納得しとけや。
そんな本音はぐっと心の奥にしまって、俺は今まで生きてきてこんな笑顔作った事がないというくらいのにっこにこな笑顔を作り、諭すように言う。
「また来ればええやん。付き合うで?」
「じゃあ、約束」
如月は手を握りしめ、拳を作った状態から小指だけを立てて俺の目の前に差し出した。えーっと、つまりこれは……指切りという行為ですよね? うっわ、初めて見たわ高校二年生で指切りとかやるやつ。ちゅーか指切り自体もう古いやろ! 小学生でもやってへんやろ!
つっこみたかったが、なんかもう指切りに応じないと泣き出しそうな空気やったから、とりあえず無言で左手を如月と同じ状態にして、自分の小指を如月の小指に当てた。瞬間、如月が嫌そうに顔を歪めた。そして、ぽつりと呟いた。
「左利きとやると気持ち悪い」
お前がさせたんやろぼけ! あほ!
またつっこみたくなったが、なんとか堪えた。あ、つっこめなかった理由は先程述べた通り。
「何か欲しいもんある?」
「欲しいもん、ねえ……」
如月に問われて、ずらりと並んでいるUFOキャッチャーに視線を向ける。
UFOキャッチャーの中には人気アニメのフィギュアだとか、キャラクターのぬいぐるみだとか、正直言ってそんなもん置く場所あるんならもっと使えるもん置けや、と言いたくなる、場所の無駄使いにしかならない何の役にも立たない観賞用の物ばかりで、これといって欲しいものは無かった。
「何も無い」と言うのは何や冷たいなと思って"お前は何かないんかい"と聞き返そうとして隣の如月を見ると、たくさん並んでいるUFOキャッチャーの中の一つの機械に目を止めていた。
如月が凝視している方を見ると、そのUFOキャッチャーもまた毒々しい程のピンク色の光を発していて一瞬怯んだが、今度は少し目を伏せながら恐る恐る目をやった。
「え……あれ?」
UFOキャッチャーの中に並べられていたのは、黄色の肌……ちゅーか毛? に赤色のTシャツを着た、あの有名な熊。蜂蜜大好きな熊。オレンジの虎とピンクの豚と一緒にいる熊。その熊のぬいぐるみの中に、アラーム機能付きの時計が埋め込まれている、明らかに女子向けの可愛らしい物やった。
「や、べ、別に? 何でもない」
はぐらかそうとする如月は、挙動不審という言葉が相応しかった。目泳いでるし。噛みすぎやし。動揺しすぎやろ……。
「あれ頭んとこ紐付いてるし、結構すぐ取れると思うけど。どうする? いるんやったら取ったるで?」
俺がそう言うと、如月は自分の下唇を軽く噛みながら俯いてしまった。
俺はどうしたらええんやろ。正直「ハッキリ言えやぼけ。女々しいんじゃコラ」と怒鳴りつけてしまいたい。今すぐにでもそうしたい。いやでもそしたら如月はめんどくさい性格やから絶対「いらん」って言うやろ? そうなってもめんどくさい。じゃ、俺はどうするべきか。
「いる?」
もう一度、精一杯優しく甘ったるい声で問いかけるという方法しか、俺の頭には浮かばへんかった。
「取れるんか? お前」
「馬鹿にすんなあほ」
特徴的な長くて赤い右の襟足をくるくると人差し指でいじりながら尋ねた如月に、俺は小さな罵倒と共に返してやった。
「ほ、ほんまに取れた……」
如月は手に持った黄色の熊の時計付きぬいぐるみを見つめながら、唖然とした表情で呟くように言った。
黄色の熊の頭に付いた紐がアームに引っ掛かり、なんとワンプレイ、百円で取れた。
「ほ、ほれ見ろ。すぐ取れたやろが」
「いや絶対お前もびっくりしてんやろ」
う、図星。いや、だってまさか一回で取れるとは思わなんだ……。
"その通りです"って言うのもかっこ悪いし、顔を背けて誤魔化した。……つもりだったが、如月が意地悪く鼻で笑った事により誤魔化しきれていない事が判明した。……今思ったけどこいつ失礼やないか? 仮にも取ってやったんは俺やで。何でその俺が鼻で笑われなあかんねん。意味不明。理解不能。ほんまおかしいやろオイ。
今度こそつっこんだろ思ったのに、如月がのん気に「次何するー?」と周囲に音符を飛ばしているんではないかという位楽しそうに聞いてきたから、またタイミングを逃してつっこめなかった。畜生。
「やっぱプリクラかなぁ」
「プリクラぁ?」
ナイナイ。そんな寒い事なんでせなあかんねん。俺の思っているプリクラと如月の思っているプリクラが同じものなのであれば、あれは絶対男二人で撮るもんちゃうし。絶対女子のグループとかカップルで撮るもんやろあれは。
「ちょ、お前、待てコラ!」
思った事を口にする前に、如月は俺の右手首をぐいぐい引っ張って、何やものっそい厚化粧した女の人のデカい写真が貼られたプリクラの機械が多く並んでいるコーナーへと連れて行こうとする。そのコーナーに中高生ぐらいの女子がたくさん群がっているのは言うまでもないやろ。
おい、ほんま、勘弁してくれ……。俺はまだ男をやめる気無いで。
「なあ、待ってって。プリクラとか嫌やっ」
「思い出やよ、怜ちゃん」
「誰が"怜ちゃん"や!」
「お前以外に誰がおるん」
そんな口論をしてる間にも俺は如月に引っ張られるままどんどんそのプリクラコーナーに連れて行かれ、出てきたプリクラを見て雑談を楽しんでいる女子達を掻き分け、たくさんある内の一台のプリクラ機に向かって突き進んでいく。その足取りには全く迷いがない。
もしかしてこいつ、最初からプリクラ撮るの決めとったんか? いや、それは……あーもう、やめやめ。考えたら考える程おかしな方向に超特急で向かっていく。違う違う。ただの思いつき、嫌な冗談。うん。そう。きっと。多分。