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Re: 嫌いに、なれたら +実話+ ( No.141 )
日時: 2010/06/13 02:33
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: uRjlitq/)
参照: 「好き」と言われることが どんなに幸せか感じたい(by.NAO

第八十六話『夢想』


*動物園*


「……おぇぇ、酔った……」


三十分以上バスに揺られ、私は酔ってしまった。
元々酔いやすい体質なんだが……。
今回は酔い止め飲んだのにぃ……うう。


「依麻、大丈夫?」
「大丈夫……なはず……」


琉佳は、ぐったりしている私にパンフレットで風を送ってくれた。
私は力なく「ありがとう」と呟いた。
すると、周りから「これ誰?」と言う声が聞こえてきた。


「依麻だよ」
「三上依麻? ……酔ったの?」


来たのは、ひょっとこと続海、凛に高崎だった。
琉佳が私の代わりに「うん」と頷くと、続海とひょっとこもパンフレットで風を送ってくれた。


「あ、ありがとうございます……」
「感謝しろよ、依麻! 俺が扇いでやってんだぞーっ」
「続海も……ありがとう……ございます」


あぁ、具合悪いよー。
私は十分間くらい、苦しめられていた。


**


「——もー! 駿二たちどこ行ったわけ!?」


動物園巡り後半。
琉佳が小さく叫んだ。
そう、私と琉佳以外の他の班のメンバーが、皆居なくなってしまったのです。


「……仕方ない……。依麻! もう放っておいてバスに向かおう!」
「そ、そうだね」


私と琉佳は、坂を下りてバスの止まっているところへと向かった。
その時、


「……あ、凛」
「お、琉佳……と、三上依麻」
「凛、一人で何してるの? 他の班の人たちは?」


一人で歩いている凛に遭遇。
琉佳が質問すると、凛は「ん」と遠くの方に指差した。


「先に行った。バスで合流する予定」
「へぇ、そうなんだ」
「琉佳たちは?」
「私たちは、駿二たちとはぐれて……。ね、依麻!」
「う、うん」
「へぇ」


凛は、小さく呟いた。
そして横目で私たちを見た。


「どうせだから、バスまで一緒に行くか?」
「え? いいの?」
「どうせ、お前らバスの場所わかんねぇだろ」
「……」


図星です、凛くん。
琉佳は顔を赤らめて「……ハイ」と呟いた。
私も静かに頷く。


「よし、じゃあ行くぞ」


凛は止めていた足を動かした。
そして、ゆっくり歩行でバスのところへと向かった。


**


「……バスまでの距離長くない? 暑い……」
「今中間地点だから、もうすぐだろ」


中間地点まで来て、私と琉佳は次々と口を開いた。
それに比べて、凛は冷静に坂を下りている。


その時、柵のところに寄りかかっている怜緒の姿が目に入った。
なんだか怜緒の顔は、昨日のことがあったせいか、日差しが眩しいせいか——。
険しい顔をしていた。


そしてそのまま、小さい声で凛に話しかけた。


「……凛」
「あ、姫吉」
「……班の人たちは?」
「先に行った」
「……へぇ……」


怜緒の声が、いつもより低くて元気がないように聴こえたのは、ただの私の気のせいだろう。
私はなんだか怜緒と顔が合わせづらい為、下を向いて歩いていた。


昨日の出来事のせいで、余計距離が遠く感じる。
いつもより気まずく感じた。


そう思ってると、怜緒は無表情のまま「じゃーね」と呟いた。
凛も「じゃあな」と呟き、再び歩き始めた。


「……」


なんだか、切ない。
そう思ってしまったのは、何でだろう?


*バスの中*


「……」


見れば、私の周りの人々は全員爆睡。
ひょっとこも、凛も琉佳も美里奈も沙理も——。
皆見事に寝ていた。


「……うへ」


駿二は、風李に寄りかかって寝てるし。
なんだか微笑ましい光景……って、何考えてる私!!
風李は怜緒と雰囲気&顔が少し似てるので、なんだか少し見とれてしまった。


風李が怜緒だったらな——。
なんて、思っちゃったり。
風李の寝顔を見て、私は心の中で「似てる」と呟いた。


「……」


同じクラスだったら——。
もっと運命は、変わっていたのかもしれないね。


って、風李に向かって心の中で呟いてどうする!!
風李は怜緒じゃないのに——。


そう思ってると、急激に眠気が襲ってきた。
あぁ、目を瞑れば君の姿が浮かんでしまうのに——。
私の意識はどんどん遠のいていった。


——その時に、小さく会話が聞こえた。


「——じゃあ俺、依麻を彼女にするわ」
「え、でも姫吉……——、怜緒は?」
「あいつは——……、だよ」


続海と駿の会話。
二人は、何を話しているの?
怜緒は、何なの?


色んな疑問が残ったけど、今は色々考えられない。
そんな力が、もう私には残ってないの。


少し、休ませて。
少し、もう少しだけ頑張れる力を下さい。


**


「——麻、依麻——……」


怜緒の声——……?
なんだか、また少し高くなった?
一年生の頃に戻ったの?


あの頃は、まだ幸せだったね。
君に出会ったばかりで、君がまだ初々しくて——……。


「——依麻っ!!」
「ひっ!? ……つ、続海?」


怜緒の声だと思った人は、続海だった。
もう、なんだよ……。
私は起きたばかりで、少し寝ぼけていた。


「依麻、メガネ宿泊先に忘れてない?」
「ふへ? メガネ? ……あるよ〜」
「あ、じゃあ依麻じゃないね」


続海はそういうと、軽く笑った。
私は疑問に思いながらも、眠たい目を擦った。




こうして、波乱の宿泊学習——。
一泊二日の悪夢は、幕を閉じた。