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Re: 嫌いに、なれたら +実話+ ( No.272 )
日時: 2010/07/21 18:02
名前: 在処 ◆VRtMSlYWsU (ID: MT1OWC7F)

第百十話『馬鹿な期待』


**


四時間目は家庭科。
移動教室のため、私たちは廊下に出る。


あぁ、なんか気分が憂鬱。
三組と四組の前、通りたくない……。
でもここ通らないと行けないんだよなぁ……はぁ。


私は小さくため息をつきながら、一気に走り抜けた。
ふぅ、これで一安心……。
そう思ったとき、


「依麻ぁ〜」


続海が、高い声でそう叫んだ。
私はゆっくりと振り返る。


「……何?」
「依麻、姫吉のこと好き?」
「は?」


突然なんちゅー質問だ。
私は思わず間抜けな声を出した。


「姫吉、好きな人いるんだよね」
「……」


続海がそう言い放った。
そんなこと、あんたに言われなくたって——。
わかってるよ。


「愛可……でしょ?」


私は冷たくそう言った。
いや、自分ではそう言っているつもりだった。


しかし、明らかに声は震えていた。


「違う違う」
「違わないじゃん。……だって私は、愛可と違って……嫌われてるもん」


これが現実、正当な答え。
だけど、自分でライバルを引き立てるような発言は……なんだか、虚しかった。


自分の発言で勝手に落ち込んで、私は俯いた。
そんな私を見て、続海は小さく笑った。


「いや、あれ本気じゃないよ。死ねとかも本気じゃない」
「へ……?」


俯いていた私の顔が上がった。
……どういうこと?
この前、私に「死ね」って言ったのは——。
本気じゃ、ないの?


「……続海、それってどういうこと?」
「姫吉その好きな人の名前教えてくれないんだよね〜。でも一組って言ってたから、もしかしたら依麻かも知れないって思って」


まったく話が読めない。
それは嘘? 本当?
もう、何が真実なのかさっぱりわからないよ。


そう思ったとたん、続海が私を上目遣いで見てきた。


「……だから、依麻の気持ちはどうなのかなぁ……って」
「……っ」


私の気持ち——。
そんなの、好きに決まってるじゃん。
だけど——……。


「……っ知るか!!」


三上依麻、脱走。
続海は目を見開いて「あっ」と驚いていたが、私は振り返らずに逃走した。


「……っ」


そんな期待させること、言わないで。
そんな泣きそうになること、言わないで。


君が私なんかを好きになるはずがない。
それなのに——……。


もう、最悪。
心がドキドキして、
だけど少し切なくて。
……馬鹿みたい。


——それでも、少し期待しちゃってる自分がいた。