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Re: 嫌いに、なれたら +実話+ ( No.299 )
日時: 2011/01/23 19:05
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: h7rqA5xU)
参照: すれ違いは結局運命で すべては筋書き通りだって(by.Calc.

第百十三話『最後の告白』


今日は、七月十日。
なんだかいつもより日差しが強く感じて、私は空を見上げた。


「……」


向かうべき先は、公衆電話。
そう。
今から、怜緒に電話をかけるのだ。


転校するって言って。
最後の告白をして。
さよなら、するんだ。


「和美に電話番号教えてもらったし……よし」


私は近くの駅の公衆電話の前で立ち止まり、握っている小銭を見つめた。
公衆電話で告白とか、なかなか出来ない体験だよね。うん。
あぁ、緊張するけど……。


「南無阿弥陀仏!」


私は小銭を入れ、怜緒の家の電話番号を押した。
プルルルルという音が、心臓の音と共に鳴り響く。


「——もしもし」
「っ!!」


出たのは、大人っぽい低い声。
お 兄 ち ゃ ん か !
私はテンパりながらも平然を保とうとした。


「え、えっともしもし!! 水城ですけど、れ、怜緒君いますか?」
「……あー、ちょっと待って下さい」


思わず母方の名字を言ってしまったよ。
まぁいいよね、うん!!


「——はい」
「……っ」


耳に入ってきた、愛しい声。
久しぶりに聞くその声は、なんだか低く感じる。
私は一瞬息が詰まりながら、受話器を握りしめた。


「も、もしもし?」
「……もしもし?」
「……」
「……」


沈 黙 
これはまずいだろ!!
私は慌てて口を開いた。


「あ、のさ! 聞きたいこと、あるんだけど。いい?」
「……あぁ、うん」
「えと、和美と舞夜のことなんだけど、なんかあったの?」


適当な話題作り。
和美と舞夜が喧嘩してるのなんて、和美から聞いたためとっくに知ってる。
でもここは、やっぱ話題の為に——。


「……喧嘩したんじゃないの」
「なんか和美、さ。結構酷いこと言われたらしいんだけど。なんか知ってたりする?」
「知らない」
「……」


沈 黙
話終わっちゃったようわぁぁぁぁぁ!!
こ、こうなったらヤケだ!!


「もう一つ聞きたいことが」
「ん?」
「好きな人誰」
「……え」


直球すぎたかな?
でももうさよならするんだし、いいよね!?


「わかんない、いない、あ、わかんないいないっ!!」
「じゃ、じゃあ! 愛可に告白したんでしょ!?」
「……え?」
「え?」


何故怜緒が疑問形なんだ。
疑問に思ってるのはこっちだよ馬鹿!!


「え?」
「え?」
「え?」
「え?」


なんか、え?合戦になってるんですが。
キリがない、馬鹿ぁぁぁ!!


「え、してないの?」
「……」
「な、なんか聞いたから」
「……あ、明日! また明日!!」
「あーっと、ちょちょちょ、ちょ待って!!」


逃げるな怜緒!!
私には明日はないんだよ!!


「……あのさ、私が……転校するの、知ってる?」
「……え?」
「知ってる?」
「……まぁ、うん」


きっと和美が説明したんだな、うん。
和美はもう私が転校すること知ってるからね。
よし! ここまできたら、もう後は引けない!!


「だから、さ……。あの、えと、まぁ。聞いてくれます?」
「……」
「あの……えーと!


やっぱまだ好きだから、もしよかったら付き合ってもらえないかなぁ?」


……よし! 言えた!!
私の心臓は、言えた事の解放感と返事を待つ緊張感でドキドキしている。


「ぁ……」
「……」


沈黙が走る。
駅のホームはざわざわと騒がしいのに、私と怜緒の間は静寂が響き渡っている。


「……」
「……いい?」
「……」


沈黙が続いた。
あぁ、何か言ってよ。
はっきりしなきゃ、私また諦められなくなっちゃう。


「……」


それでも君は、無言を突き通すから。
——返事は、わかってる。


「突然、こんなこと言われても困るよね」
「……うん」
「ごめん」
「……」
「迷惑だよね」
「……うん」
「ごめ、ん——」


あぁ、わかってたけど。
いくら謝ったって、もう戻れないのだけれど。
君の言葉が、胸に刺さる。
でもこれは、


「返事は、NOでしょ?」
「——……うん」




私が君を好きだった証だから。




「……うん、わかった」
「……」
「……」
「——ごめんね」
「っ、……」


謝るな、ばか。
涙が、


「……私の方こそ、ごめんね」


零れてしまうから。


「なんか、色々さ。ごめんね」


でも私に泣く資格なんてない。
ここで泣いたら、怜緒を困らすだけ。
だから涙を堪えながら、謝ることしかできない。


「転校するのに、最後に言えてよかったよ」
「……うん」


だから精一杯の、最後に強がり。


「な、なんか突然電話してごめんね!」
「大丈夫だよ」


なのに。
そんな優しい言い方しないで。


「……っ、」


もう駄目だ、堪えられない。


「——じゃ、じゃあね」


これ以上話していたら、涙が溢れる。
私は逃げる為に、震える声でそう告げた。


「うん……じゃあね」
「——バイバイ」




バイバイ、怜緒。
さようなら、私の恋心。