コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re:  ・Cheryy・ —2つの果実— ( No.258 )
日時: 2010/06/18 22:44
名前: 香織 ◆r/1KAORIEk (ID: ZclW4bYA)
参照: http://happylovelife612.blog27.fc2.com/


第72話



 「よ、よっ……」


 私はぎこちなく返事をすると、孝文はそのまま私のところに近づいてきた。
 そして、目を細めて私を凝視してくる。


 「にしてもさあ……お前らなにしてんだ?」
 「あっ……」


 家の中にはいるなら入ればいいのに、中途半端なところで立ち止まって、玄関で会話している。
 しかも私と辰雅という、ものすごい妙な組み合わせで。
 そりゃあ、目を細めたくもなるよね……。


 「あのねー香織姉はね、優志兄が好きすぎて、仕方ないんだよ」
 「へえ……」


 辰雅の勝手な発言をきくと、孝文は無表情で、私のほうを向いてきた。

 「違うよっ! 勝手な想像しないでよっ」
 「……お前、優志好きなの? ふぅ〜ん……。
 や、知ってたけど、よく考えたら、お前ってすっげえ趣味変わってるな」


 そこまでいわれたら、ちょっとイラッとくる。
 けど、まあ……たしかに、趣味はかわってるかもね、てかもう好きじゃないし!
 私が弁解する前に、孝文は話を続けた。


 「あいつさ、なんか変な奴と絡んでるんだよな。
 なんていうか……そうそう、顔は……、歴史の教科書に出てきそうな。
 ほら……なんだっけ、ほら、こんなん」


 孝文はランドセルから、歴史の教科書をとりだすと、ひたすらページをめくった。
 そしてあるページでとめると、私達に教科書を見せてきた。


 「ぶっ……これ平安時代の貴族の女性じゃん」
 「ん、だからこんな顔してんだよ、その絡んでる奴」
 「スズノマナカって人じゃない?」

 辰雅が笑って、咳をしながらきいた。


 「ああ、鈴野鈴野。優志も趣味変だよな、平安美人だぜ」
 「イコール現代のブスだもんね……」
 「香織、お前やけにはっきりいうな」

 そういう孝文も、かなりわらっていた。つられて私も笑ってしまった。





 「……じゃ、うちそろそろ帰るね……あ」


 私はあることを思い出して、歩み始めていた足をとめ、ゆっくりと2人のほうに振り返った。
 孝文と辰雅が「なんだよ」と声をあわせて、私に尋ねてくる。
 私はとっさに辰雅に近づき、辰雅の両肩をがしっとつかんだ。


 「これをきいてたことは、優志にはいわないでねっ!」
 「……なんで?」
 「変な誤解うけるのやだからっ」
 「……恥ずかしいからじゃないの?」


 辰雅はまたにやけて、私を冷やかしてきた。……何度いえばわかるんだろう、もう。
 私は深くため息をついて「とりあえず!」と続けた。

 「絶対にいうなよ! OK?」
 「ん〜……おっけぃ」

 辰雅はにこっと可愛らしく笑って、右手でOKサインを作った。
 さて、今度こそ帰ろうか……そうおもいながら、後ろを向くと、今度は孝文が呼び止めた。


 「香織っ……!」
 「ん? 何?」
 「あのさ……」


 孝文は、あのときのような、真剣な瞳を私に向けた。


 「……優志と鈴野の、いいなりになるの、やめね?」
 「……え?」


 孝文はもううんざりだ、といわんばかりの顔をしていた。
 ……なに?
 この子は、なにがいいたいの?


 「……だから、もういっぺん……その、あの」
 「……?」


 孝文は言葉を選んでいるのか、途切れ途切れに話している。
 ……!!
 わかった、こういうことかなあ……?


 「つまりは、もう1回……仲良くしよう、そゆこと?」
 「あっ、そ、そゆこと!」


 孝文はぱあっと顔が明るくなり、にかっと眩しい笑顔を見せてきた。
 こうやって笑っている孝文が、すごく可愛かったし、何より愛しくみえた。


 「あ、じゃ、じゃあな」
 「うん! ばいびーっ」


 私は元気よく、三井家をあとにした。
 もう過去は振り返らない、さよなら、優志。


 小4の頃から君が好きになって。
 あれはすごく、突然の事だった。
 急に、急に、大嫌いだった優志のことが、好きになった。
 それから想いは募るばかりで……。
 告白したけど、保留したまんまだったね、けどもう、破棄しちゃっていいよ。
 ……もう私は君を好きじゃないから。


 君の事は、憎いけど。憎いけど。
 それでも……君を好きになって、色んな気持ちが知れたと思うんだ。
 ありがとう、嫌いだけど好き、好きだけど嫌い。
 

 これからは私のことを忘れて。
 私も君のことを忘れて。
 思い出を全部消して、それぞれ違う人生を歩んで生きたい。


 「ふうっ」



 真っ赤な夕日が、私の清清しい顔をこれでもか、というほどに照らした。