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Re:  ・Cheryy・ —2つの果実— ( No.355 )
日時: 2010/06/26 16:40
名前: 香織 ◆r/1KAORIEk (ID: ZclW4bYA)
参照: http://happylovelife612.blog27.fc2.com/


番外編「小学生★ライフ」


孝文side


 それは、本当に突然の出来事だった。
 夏が近づいてきて嬉しいはずなのに、俺は全然嬉しくない。
 ずっと梅雨でもいい……夏なんかくるな。
 今は蝉の音が、ただただ、けたたましく聞こえるだけ。



 君は、夏祭りの夜店で売られている、綿菓子のように……ふわりと、消えた。



**



 「あっぢぃいおおお〜」


 6月も終わりごろ。
 何故か今日は晴天で、しかも汗だく。
 ……あ〜……マジで暑いなこれ、なんでこんなに暑いんだろう……。
 今すぐ、プールにでも飛び込みてえっ!!


 「なあ孝文、夏休みも遊ぼうぜ」


 そういってきたのは、慶一。慶一は、この暑いのに平気な顔をしている。
 ……まあこいつ、暑いのは平気な癖して、すっげぇ寒がりだからな。
 冬とかもう、硬直してるしな、うん。


 「おう、遊ぼう、龍夜も」
 「うん……夏か……休みか……んん」


 龍夜は、綺麗に染まった青い空を眺めて、ぼそりと呟いた。
 ……俺はぼんやりとしている龍夜を驚かそうと、背中を人差し指でつつく。


 「おーい龍夜! 龍夜! 龍夜ってば!」
 「お……お前、しらないのかよ……」
 「は?」


 龍夜は突然俺のほうに視線を向けて、言った。なにを知らないんだ……?
 俺が口を開こうとした時には、龍夜はもう説明を始めていた。


 

    「 林野、転校するんだって 」





 …………。
 嘘であると願いたかった。
 さっきのは、空耳……なんかじゃないよな?
 なあ、さっきのはなんなんだよ、おい。
 俺はそのまま硬直してしまった。
 そんな俺に、慶一が言葉をかける。


 「うおー……それは残念だな、孝文」



 一応慶一と龍夜には、花梨が気になるとだけは伝えてあった。
 伝えた時、2人は目を大きく見開いて、顔を見合わせて叫んでいた。
 まあ無理もないよな……。
 あれほど嫌がってた女子を、今では恋愛対象としてみてしまってるんだから。



 「そ、それって……まじかよ」
 「まじ。東京だって、遠いよな」
 「なんで引越しするんだよ!!」
 「しらねえよそんなこと、林野にでも聞け」


 龍夜は半ば冷たくそう言い放つと、また空をぼんやりと見つめ始めた。
 ……8年間の長い付き合いで、はじめて龍夜が空をみるのが好き、ということを知った。
 いや、まあそれはいまはいい。
 


 転校……か。
 

**


 学校についたのは、8時をちょっとすぎた頃だった。
 まだ2組には、花梨はきていない。
 ……ってか2組で龍夜を探すはずが、無意識に花梨を探している。
 俺は、慶一と龍夜と、いつものように喋っていた。
 ……今日は外は雨だから、運動場で遊べねぇしなあ……。


 「なあ、俺さ、昨日すげぇもんみた」


 真顔でそういうのは、慶一。
 「え!?」と龍夜と俺の声が重なった。



 「平安顔に似てる男女3人組!! 思わず携帯で写真とってきた」
 「なんだよそれ……」


 龍夜は呆れたようにそういい、慶一は携帯を開いて、俺たちに画面をみせてきた。
 ……こ、これ……こ、ここ、ここれぇぇぇはあああああっ!!


 一番左端の男、優志じゃねえか。

 

 「ぶっ……なんで優志……と、あと2人の女は……」


 あ、こいつ……たしか鈴野愛可とかいったな。
 おおおお、すげえ、平安美人度が前より増してるぜ!!
 でも、あと1人の女は誰だろう? 俺は疑問に思い、2人に尋ねた。


 「確か、この長い黒髪のやつは、おかめ納豆って名前……」
 「おかめ納豆!?」


 龍夜が真顔でそういったので、俺は思わず噴出した。
 おかめ納豆って……それあだ名だろ。


 「んとな……確か本名がな……藤山、美里奈、だったはず」
 「てかなんでそんなにしってんだよ、おま」
 「……姉貴がいってた」


 つまりこういうことか。


 「ねぇねぇ龍夜〜っ!! 康義〜っ!!」
 「なんだよ」


 香織が、龍夜と康義がテレビをみてるっていうのに、話しかけてきた。空気よめない奴。
 香織は、鬱陶しそうにしている2人に、強引に1枚の写真をみせつけてきた。


 「これさ〜おかめ納豆に似てない?」
 「は?」
 「どういう意味?」


 龍夜と康義は、香織のみせる写真に釘付けになる。
 ……そこには、案の定藤山美里奈が、にこやかに写っていた。
 
 「似てないこともないな、おかめ納豆」
 「でしょ? この人の本名、藤山美里奈だけど、あだ名おかめだよ」
 「ふぅ〜ん」



 ……なんかくだらん。
 にしても、優志もたしかに平安顔だよな……ぶはっ。



 「三井君、おはよう」


 突然背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
 俺は思わずドキッとして、とっさに後ろに振り返る。
 ……花梨だった。
 花梨は笑顔で、こちらをみている。
 俺も思わず笑顔で「おはよう」と返した。


 「……あ、林野」
 「ん?」


 横で龍夜と慶一が「ひゅーひゅー」なんてはやし立ててくる。


 「……あの、お前、転校するんだろ?」
 「うん、そだけどー……」
 「いつ転校するんだよ!?」


 俺は質問攻めをした。今日聞かないと、なんだかもう、一生聞けないような気がして。
 花梨は途端、うつむいてため息をついた。


 「……7月20日、終業式が終わった日」
 「ふぅん……そうか」


 俺が頷くと、花梨はそのまま2組の教室に向かっていってしまった。
 呼び止めないと……まだ話したいことが、あるのに。


 「待てよ」




 そう叫んだけど、俺の声は届かなかった。
 それ以上の声でかき消されたせいで。