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Re:   ∞  真夏の果実   ... ( No.45 )
日時: 2010/05/28 18:45
名前: 香織 ◆r/1KAORIEk (ID: ZclW4bYA)
参照: http://happylovelife612.blog27.fc2.com/




 第4話



 大正6年。
 西暦に直すと、1917年。
 確か……そうだな、第一次世界大戦の途中。
 そんな年に、彼女は生まれたのだと言い張る。信じれるわけがなかった。
 1917年といっても、たった93年前だし、生きている人もいるだろう。
 しかし……こんな小学生みたいな容姿の、93歳がどこにいるのだろうか?
 ……そうか、この子は俺をおちょくってるのだ。


 「……じゃあ、何歳だ?」
 「もうすぐ、16歳です」


 静香は、澄んだ黒い瞳で俺を見て、そういった。その表情から、嘘は感じ取られない。
 でも、やっぱりありえないことだった。16歳だったら、俺と同じじゃねーか。


 「君、冗談言うの好きなんだな」
 「冗談じゃありません!!」


 さっきとは打って変わって、キツイ口調で怒鳴ってきた。
 さっきよりかなり声色が違ったので、少し吃驚した。
 静香の、穏やかな目は大きく見開いて、俺を睨みつけている。


 「あ……悪かった、すまん」
 「……どうして、信じてくれないんですか? さっきといい、今といい……——」


 だって、現実的にありえないことばっかりだから。
 とはさすがにいえなかった。静香はもう、泣きそうな顔をしていた。
 ……どうやら、記憶喪失ではないようだ。
 ならば、ならば。



 この子が、過去からやってきたと想定しよう。




 1917年生まれでもうすぐ16歳なら……えーとっ……1933年。
 つまりこの子は、1933年の昭和8年からやってきたことになるのか?
 昭和8年といえば、まだ戦争も始まってない時期だ。しかし、戦争の足音はしてきている。
 ……もし静香が言ってることが本当なら、俺は……。


 「戦前を生きた人から、話が聴けるってわけか!」
 「……な、なにがですか……」


 俺がいきなり声をあげたので、静香は軽蔑するような目つきで、俺を見た。
 俺は「あ、いやなんでもない」と、慌てて訂正。
 すると静香は、それを受け流してくれたのか、次の話題に変えてくれた。


 「あの、私……家に帰れるかしら。ここ、全く見知らぬ場所で——」
 「当たり前だよ」
 「え?」


 当たり前だ。
 俺は静香を信じよう。……この子は、この時代の16歳ではない。
 

 昭和8年の16歳だ。


 「君は、この時代の人間じゃないんだからな」
 「……はい? 意味がわかりませんわ」


 なんといったら、伝わるだろうか。
 確かこの時代は西暦、というのはあまり一般的ではなかった。
 なんなら、元号か……皇歴だ。
 


 「ここは……昭和85年の、皇暦2670年だよ」
 「えっ……!? ってことは、80年も先に……」
 「そういうことだな」


 静香は、信じられないと言わんばかりに、頭をかかえこんだ。
 まあそうだろうな……。


 「貴方、冗談は抜きに——」
 「冗談じゃねえよ……とりあえず、俺の家へ戻ろう」


 このときさ。
 やっぱり、ここでさよならしてたなら。
 何か変わってたはずなんだ。
 ……こんな思いしなくて、すんだはずだった。
 俺の馬鹿……!!