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Re:   ∞  真夏の果実   ... ( No.54 )
日時: 2010/05/29 14:31
名前: 香織 ◆r/1KAORIEk (ID: ZclW4bYA)
参照: http://happylovelife612.blog27.fc2.com/



 第5話



 
 「武! さっきはよくも——あれ? なんで戻ってきてんだよ?」


 家のドアを開けるなり、英才が玄関に来てそういった。
 俺は「今から説明する」と居間に移動する。
 居間には、テレビをボーッとみている姉貴がいた。
 そして、こちらに気付いて「えっ」と声を漏らす。


 「……あれ? 誰この子……」
 「あ、剛田静香といいます」


 驚く姉貴に、丁寧に自己紹介をする静香。姉貴は、にんまりと笑みを浮かべた。

 「へぇ〜……初カノおめっと♪」
 「ち、ちげぇし! ……不法侵入者だよ」


 慌てて訂正する俺の頬をつつく、姉貴。……あーどいつもこいつも、勘違いしやがって。
 俺はイラつきながら、姉貴の手を振り払うと、ソファに座った。
 隣に、静香もちょこんと座る。


 「今から、この子について説明するぞ」
 「えっ……!?」
 「なんなんだよ」


 姉貴と英才は、首をかしげながらも、俺と静香と向かい合わせの形で、ソファに座った。
 そして、俺はさっきのことを事細かに説明した。
 テレビを知らないとか、ド○えもんを知らないとか、それはこの時代の人にとって、当たり前なので説明はしない。
 説明が終わると、英才は「ふぅーむ」と、真面目な顔で腕を組んだ。


 「じゃ、証拠はあんのかよ」
 「えっ……うー……」


 英才に言われて、静香は天井を睨みつけながら、うなった。そして「あ」と声をあげる。


 「何、何かあったの!?」
 「はい……ちょっとお待ち下さい」


 静香は、手元にある風呂敷を探りはじめた。
 そして1冊の赤い、冊子を取り出して、その冊子を開ける。
 
 「アルバムです」


 俺は、英才と姉貴と一緒に、食い入るようにしてそれをみた。
 この中に、なにか証拠となるものがあるらしい。
 当然ながら、写真は白黒。その中には、静香の姿も数枚あった。
 しかしこれでは、信じきれない。白黒に加工だって、今では可能なのだから。


 「あ、これ……!!」


 姉貴は、アルバムの中から1枚の写真をとりだした。
 写真には、今より少し幼いセーラー服姿の、静香がおすましをしている。
 その後ろの看板には——


 “昭和5年度 乙姫高等女学校入学式”




 「……どうやら、本当のようだな、はいアルバム」

 俺は写真をしまうと、静香にアルバムを返した。
 静香は分かってもらえたのが嬉しいのか、にっこりと笑みを浮かべていた。


 「すっごぉーい! タイムスリップってありえるのねー!!」
 「はい……あ、あの、お名前聞いてなかったですね……」


 興奮する姉貴に、ぼそぼそと話しかける静香。姉貴はそれに気付いたようで、自己紹介をはじめた。


 「うちの名前は、源スミレっ!! 花の20歳♪ 大学2年生だよん♪静香たん、かわいいーっ」
 「……そちらの方は?」


 静香は、姉貴を無視するかのように、英才のほうをむいた。
 英才は「えっ」といったあと、自己紹介をはじめた。


 「俺は、野比英才でえーす!! えいさいとかいてひでとしなんだけどよー、年は16! シズちゃんと同じだな、よろしくう♪シズちゃん、大事にするよぉん」


 …………。
 コイツは、静香のことをシズちゃんと呼ぶらしい。
 ますますド○えもんっぽいぞ……。



 「武さん、私これからどうすればいいですか?」


 なんと2人を無視したまま、俺に話しかけてきた。
 どうやらこの2人は、危ない人とでも察したのだろうか——
 まあ……あれだな、当たってないこともない。

 「あっ……居候……かな」
 「えっ! そんな……申し訳ないです」


 静香は本当に申し訳ないと思ってるらしく、おろおろした表情を見せた。
 すると、静香曰く“危ない女”の姉貴が、口をあけた。


 「なんでー静香たん、明日うち午前の1時間しか、授業とってないから、一緒に渋谷いこーよぉ、ねえ」
 「……渋谷って……何があるんですか?」


 お、口を利いた。



 「ん〜……とりま、オシャレなショップがいっぱいあるよん、静香たんの時代にはないような、ね」
 「へえ……」


 静香はそういうと、俯いて黙ってしまった。なんだか、重たい空気が流れる。



 「私……どうしても、家に帰らないといけないんです」
 「なんで?」


 英才が、聞いた。静香はそのまま、話を続けた。