コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

第56話:都上が少女と出会う時 ( No.396 )
日時: 2010/11/20 18:01
名前: 遮犬 (ID: pD1ETejM)

一方その頃。
都上は病院にいた。
いつもの病室。表札には日野崎 真希(ひのざき まき)と一人の名だけが書かれている。
都上はノックした後、中に入った。
中は綺麗に整備されており、汚いということは全くない個室だった。

「よっ、きてやったぞ」

都上はその個室のベッド上で折り紙を折っている少女に声をかけた。

「あ、沁君。きてくれたんだ」

少女は、はにかんだ笑いをすると都上に言った。
都上はその言葉に「当たり前だろ?」と、笑いながら近づいて椅子に座る。

これが都上の日課となりうる日常だった。
この少女こそ、日野崎 真希であった。

「俺さ、風紀委員長になろうと思うんだ」

都上はいきなり真希に告げた。
その言葉に数秒は呆然としていたがすぐさま笑顔に切り替わり、笑う。

「そうなんだ。でも、何で? あんなに嫌がってたのに……」

そうである。都上はそういう仕切るような委員会などはやりたくなかった。
その話を椿から持ちかけられた時、真っ先に断った。だけどそのことを真希に話すと
——風紀委員、でも沁君に似合うよね。
と、言ったのだ。
それも原因の一つになるが、もっと重要な原因があった。

「あのさ。俺、お前が学校戻ってこれるようになるまでにすっげぇ校風良くしたりしてさ?
お前がどれだけ不自由でも、暮らしやすいようにするからさ。だから……」

都上は心臓の悪い真希に向けて言った。

「だから、絶対手術して、元気になって、戻ってこいよ」

都上は出来る限り優しくそういった。
思いやりの溢れたその言葉たちに真希も次第に笑顔になる。

「うん……。ありがと、頑張るよ!」

真希はそういって、自分の折っていた折り紙を都上に渡した。
それはカーネーションのような花だった。綺麗に、丁寧に作られたことが見ただけでわかる。

「くれるのか?」

都上はもらっていいのかどうかを聞くと、大きく真希は笑顔で頷いてくれた。
その綺麗な白い手から折り紙を優しく受け取る。

「ありがと、な」

照れくさそうに都上はそれをポケットの中に大事に閉まった。
真希はその間もずっと笑顔だった。
——あぁ、ずっとここにいたい。
そう、心から思った。

都上がここにいる理由。それは他愛も無い、ここが単に好きだからという理由がまず来るだろう。
だが、それとはまた別に、この少女に手術を受けさせたいということがあった。

少女は怖がっていた。

もし、この手術が失敗したら、脳に影響が出始め、何らかの障害や何かを背負っていくかもしれない。
それが怖かった。




そうやってずっと一人ぼっちだった真希。
だが、ある時自分の病室にものすごい勢いで何か入り込んできた。それは、真っ白な野球ボールだった。

「す、すみませんっ!」

次にものすごい勢いで飛び込んできたのは、病室のドアからだった。
そこにいたのは、まだおどけない顔をした少年。カッコイイというより、可愛いの方が当てはまっていた。

「え……っと、あの……」

少年は気まずそうに私の様子を伺う。
私はそれを笑顔で返し、答える。

「貴方、お名前は?」

何でこの言葉出たのかは分からない。
友達を作ることは下手だったのに。だけどいえたのだ。この少年になら。

「都上……沁」

少年はそう、照れながら教えてくれた。
そして少年は窓が割られているのと、野球ボールが転がっているのを見て、顔を青くした後

「ご、ごめんなさいっ!」

そう、謝った。
この少年から見れば、私は年上のお姉さんに見えているのだろうか。
でも、ずっと話す相手がいなかった。それが連なり、ある言葉を口に出させた。

「許しません」

「えっ!!」

少年はそんな私の言葉に驚くのと同時に困惑の顔をした。
それはそうだろう。謝ってるのに許してくれないというのはこのぐらいの幼さの子からするとすごく不安だ
でも、私のこの"許しません"は別の意味だった。

「許して欲しかったら、一つ、条件があります」

「な、何……?」

私は、少年に手を差し伸べる。
そして、言った。


「私の友達になってくれませんか?」


不安だった。断られるのが怖くて。
断られるのは承知の上だった。だけど、少年は優しく、照れながら答えてくれた。

「よ、喜んでっ!」

顔を真っ赤にしてぎこちない笑顔を向ける沁君が、とても可愛くて、嬉しかった。

これが、私と沁君が出会ったきっかけだった。
その時、沁君は小学6年生で私は中学2年生だった。