コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

第58話:そうだ、甘いものを食べよう ( No.410 )
日時: 2010/11/30 19:49
名前: 遮犬 (ID: XvkJzdpR)

「っと、ここか」

俺と霧条はとある一つの教室で立ち止まる。
上にある表札には"衣装室"と書かれている。

「何か俺、変態みたいだな……」

そうは言っても道中、色んな生徒に聞きまわった結果、ここで相談しているらしい。
なんていうか、俺はNGだろうな。

「入らないの?」

微妙にカタコトで話しかけてくる袴姿に手には弓装備のハーフ女子、霧条。

「いやいや……俺が入ったら即警察行きだよ! 霧条が中入って椿を呼んで来てくれ」

霧条は俺の言葉に何故か首を傾げた後、了解したように小さく頷いて中へと入っていく。
何故か緊張する。通り行く生徒に覗き犯と間違えられないだろうかと心配になる。
せわしく足を動かして気を紛らすことしか出来ることはなかった。

「奏君、どうしたんですか?」

ドアが開き、椿が出てくる。いつも笑顔のままというのはこいつのお家芸でもあるな。
小さい歩で俺に近づいてくる。
ていうかお前、男じゃなかったか? と、いいたかったがすぐに終わる用件なので早々に終わらしたい。

「実は都上が——」

「わ、私! 貴方の噂を聞いてきました!」

……おい、コラ。霧条さん? 俺の話を遮って一体どうした。
ていうかその前にどこから姿を現した。いつの間に出てきたんだ……?

「あー霧条? 俺から話していいかな?」

なんてことを言ったのは、早々に立ち去って寝たいからだった。
さっきから眠気が出てきて困っているからだ。
だがしかし、霧条の暴走は止まらない。

「椿さん、ですよね!?」

「あ、はい。七瀬 椿といいます♪」

誰が相手でも笑顔を崩さない椿を初めてすごいと思った瞬間だった。

「あのな、椿。実は都上が——」

「お願いがあるんですっ!」

ちょ、マジ勘弁してくれ。早く終わらせて寝させてくれないか。
霧条が何をそんなにいきなり急いでいるのかは分からないが、俺も眠気でぶっ倒れそうである。

「霧条、すぐ終わるから俺から話していいか?」

「あのですね……」

「全く聞いてないですねぇっ!?」

「奏君、すみませんが……」

椿にも止められた。ていうかこれ、俺が悪いのか? あれ? ここまで霧条導いたのって……俺だよな?
何だか釈然としないが、待てと話すべき相手に言われたので黙っておくことにした。
霧条は元から俺の存在などなかったかのようにハイスペースで頼みを椿に申し出た。

「えっと……弓道部を助けてもらえませんか?」

カタコトで何を言った? 今。
弓道部を助けろと。椿に、茶道部部長の椿に。

「いいですよ♪」

「引き受けるのかよっ!」

茶道部って弓道もたしなめているのだろうかと俺は思ったが椿が後からそれを解消させてくれた。

「代々七瀬家には弓道や剣道など、日本の伝統のものをたしなんでいるんです♪」

笑顔で言われても。俺には「すげー」という棒読みで驚くことしか出来ない。

「ほ、本当ですかっ! いい加減、ありがとうございました!」

「ここでそんなわざとらしい日本語の間違いなんて起きますかねぇ!?」

「え? ダメでしたか? んー……日本語って難しいな……」

絶対わざとだろう。と、言いたかったが押し留めて用件は終わったはずなので俺も即刻用件を言う。

「あのさ、椿。次は俺が用あるんだが……」

「あ、はい♪ お待たせしました♪」

笑顔で俺の用件を聞く姿を見て一瞬可愛く見えてひるんでしまった俺だが用件を早々と言うことにする。

「えーとな。都上が——」

「あーっ! 何で奏がここにいるのよっ!」

またもや遮られた。そしてこの聞き慣れた声。
まさしくこの声は傍若無人の生徒会、暴風警報の会長である桜月 夕姫——

「今更そんな長い説明いらないわよっ!」

「え! ついに夕姫にも俺の心を読む能力がっ!?」

皆さん。生徒会、暴風警報は俺以外、人の心を読めるそうです。

「奏だけしか読めないけどね」

「俺ってそんなに読みやすいんですかっ!」

「間抜けな顔してるからね……」

「何の関連も無いと思うんですけど!?」

「二人とも、緑茶要ります?」

「「いらないよっ!!(わよっ!)」」

俺と夕姫の声が被った後に、後ろの方から小さい影が見えた。

「あのぅ……」

出てきたのは、いつぞやの郁ちゃんだった。
何故か顔を赤らめて夕姫に隠れたようにしている。

「あんまり、ここで騒ぐと……奏君、変態扱いされますよ?」

「え?」

言われたとおりだった。
周りを見回すと、俺の顔を見てヒソヒソとなにやら話しをしているような奴が多数。

「あー……ははは……何かすみません……」

今すぐにでも泣きたかった。
とりあえず、この場から逃げようと思った時、腕を引っ張られる。

「えーと……何?」

掴んでいたのは、郁ちゃんだった。
少々ウルウルとした目で俺を見ている。胸元辺りが熱くなるような気がするが気のせいだろう。

「あの……ごめんなさい!」

「へ?」

何で謝られたのか全く分からずに間抜けな返事をしてしまう。
するとモジモジしながらも郁ちゃんは話し出した。

「あの……以前、その……私が変な嘘ついて……奏君と、その……」

何だ。何だその言い回しはっ! そんな言い回し方だと……!

「え……何かしたのか? あの冴えない顔の奴……」

「マジかよ……何したんだ? あんな可愛い子に……」

とかヒソヒソと話声が周りから聞こえている。
案の定、思い切り勘違いされているようだった。

「ちっがああああうっ!!」

俺が断固として俺のイメージを守ろうと、プライドを守ろうと叫ぶ。

「郁ちゃん! 謝らなくていいよっ! うん! 俺のせいだからさっ!」

必死で免れようとした俺の言葉に問題発生。

「うわっ! やっぱりあの野郎何かしたんだっ!」

「えーキモッ!」

ひどい言われよう。そして俺のイメージだだ下がり。

「ち、チクショウ……! イメージがぁーーーー!!」

俺は叫んで、その場から逃げる他なかった。

「あ、ちょっと!」

夕姫らしき声が聞こえたような気もしたが、俺はそれどころじゃなかった。

(そうだ、甘いものを食べよう)

とか思ったりしたのは俺の精神がズタボロだったからと言えよう。