コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 第59話:一歩間違えればスクランブルエッグ ( No.414 )
- 日時: 2010/12/18 12:55
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: XvkJzdpR)
そんなこんなであっという間に日にちは過ぎていった。
夕姫たちが何やら新曲か何かを演奏してたり、都上が遊びにきて俺はその間都上とトランプしたり……
無為な時間を過ごしたとも思ったけども、たまにはこんなんもいいかなぁと俺は今日、体育祭に挑む。
弁当は奈津が俺のために、俺のためにだな、一生懸命作ったというのだから楽しみにならないはずはない。
一応、午後からある生徒会仮装リレーのアンカーということもあってあまり重くないもので作ったらしい。
ちなみに言っておくが、俺はシスコンではない。
「いってらっしゃい! 後から私も見に行くからね!」
笑顔で手を振って奈津は家を出る俺を見送る。そのエプロン姿、可愛いすぎてたまらんが如し。
中学は今日は休みのようで、奈津は午前の方から体育祭を見にくる。
せいぜいダメなところ見せないようにと、ひっそり胸の内に隠して俺は家を出た。
いつものように学校へ着き、いつものように教室に入——
「いくぞっ! てめぇらああああ!!」
「「うぉぉぉぉおお!!」」
なんつー歓声。ていうか朝っぱらからうるさすぎる俺のクラス、1年2組。
正直、ここまで盛り上がってるクラスは他校といえどもそうはないだろう。
「最高の祭りしようぜっ! 野郎共おおおおっ!!」
「「うぉぉぉぉおお!!」」
ちなみにかけ声的なのをやっているのは、無論夕姫。教壇の上に立って騒ぎ放題してやがる。
てかそのマイク、放送部のじゃないのか。多分昌人にゴリ押しで貸してもらったに違いない。
おーい、未来の生徒会長。先生思いっきりお前凝視してるぞ。
ようやく落ち着いたところで担任教師、長和 友寄(ながわ ともより)30歳独身がため息を吐き始まる
「えー……皆、今日は知っての通りだが……」
この言い回しが面倒臭いということで威厳は無いに等しい。
ゆえに俺みたいに冴えない顔の教師としても有名。
「今日は体育祭だ。さっき……桜月を中心に盛り上がっていた力を競技で使えー。……以上、解散」
そしてまた一つ長和教師はため息をついて教室から出て行った。
多分あれだろう。この教室に来る前に色々とあったんだろうな。……ご愁傷様、長和教師。
「奏っ!」
「うわっ! 耳元近くで叫ぶなバカっ!」
横には満面の笑顔を見せ、突っ立っている我らが会長、夕姫がいた。
俺にとってはこの笑顔は不吉な予感がする禍々しいものでしかないのだが。
「生徒会室! 行くわよっ!」
と、言い出したと思った途端に俺は夕姫に引きずられていく。
「ちょっ! 離せっ!」
抵抗して離そうとするがふたたび信じられない運動神経で俺を捕らえるため、逃れようがなかった。
「よし。暴れましょうか」
「誰のセリフだよっ! 俺は暴れる気なんて全くないっての」
廊下をこんなことを言いながら引っ張られるような形で歩いているのだから視線を痛いほど感じる。
そして向かう先は、我らが暴風警報の生徒会室。
中には楽器やら何やらが色々置かれている。衣装などがあったりするのは不明だが。
いつの間にか俺と夕姫以外のメンバーは全員揃っていた。
あれ? いつの間に椿いるんだ? 俺たちと終わる時刻同じのはずなのに。
そんなことより、だ。俺は何故だかわからないがメンバー一同にものすごい視線を向けられている。
「えーと……俺は何をすれば?」
これは素直な感想。俺が来る意味が全くない。
演奏と全く関係ないんだぞ? まだギターは練習中というより、全く弾けない状態だし。
「わかってないわね〜……意気込みよっ!」
「あ? 意気込み?」
そしてやっと俺の腕を離すと手を前にさしのばした。その後から他のメンバーも続いて手を置く。
「……何してるんです?」
何かの儀式かとは思ったがまさか体育祭の日までそんなアホなことはしないだろうと心に願う。
「見てわかんないの? 頑張りましょう! オー! の奴よっ!」
「だからアバウトすぎてわかんないって言ってるだろうがっ!」
俺と夕姫のツッコミとボケに呆れたのか鈴音ちゃんが苦笑しながら俺の質問に答えてくれた。
「バスケで試合前とかにしませんでした? 絶対勝つぞーとかって」
「あー……あれか」
鈴音ちゃんの説明も若干アバウトだが、確かに説明しにくいアレだった。
総称すると、かけ声だな。手を重ねていって、頑張ろうとか何とかいってやる奴。
モチベーションをあげたり、気合を入れたりするのにチームスポーツではよくやる行動である。
「何かまた儀式とかでも思ったんじゃないかしら?」
「なっ! 有紀さん! どうして分かったんですか!」
「アンタラのその脳内構造を是非とも見てみたいわっ! どう見たらこれが儀式に見えんのよっ!」
夕姫に脳内構造が見てみたいとか言われた……。クソ! 人生最大の汚点となりつつある!
「何よ奏! その悔しそうですごく忌々しく思ってるような顔はっ!」
「この野郎……!」
「私何か特別なこと言ったかなぁっ!?」
「お前に脳内構造見てみたいとか……チクショォオオ!!」
「そんなしょうもないことでそこまで怒ってるのっ!?」
しょうもない……だと!?俺にとっては人生の汚点になりつつある重要なことなんだよっ!!
くぅ……だが今はとりあえず落ち着こう。俺も冷静になろう……。
「とりあえず、ひと段落しましたし……緑茶いりますか?」
「おーそうだなー。さすがに気が利くな」
とかなんとか言って一同は席につき、椿の入れた上手い緑茶を——
「「飲んでる場合じゃねぇええっ!!」」
「はい?」
当の椿は何を騒いでいるのか全く分からないといった表情をしていた。
「気合入れようって時になんで和むのよっ!!」
俺よりまず先に夕姫の的確なツッコミが出る。
そのツッコミが出た直後に教室のドアが思い切り開く。
「何やってんのよっ! もうすぐ出番よ!?」
顔を見せて叫んだのはギターを持った紗希。
そういえば、これだけは薄っすら覚えている。
体育祭始まる時に、演奏するとか言ってたような……。
『えー、ただいまより。生徒会暴風警報サークル軽音より、演奏が——』
と、外からの綺麗な声。この声は放送部所属、俺たちと波乱の合宿を果たした小神 恵さんの声じゃないか
「「ギャーーーーッ!!」」
俺たちの半分悲鳴のような絶叫を叫んだ後、猛烈に教室を後にした。