コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 第61話:うさぎ飛び=過酷な兄の試練っ! ( No.416 )
- 日時: 2011/01/21 18:25
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: .pwG6i3H)
「あー暑い……」
俺は何もない日陰でのぼせていた。
というのも、もう体力がバテバテな状態なわけで……つまりもう俺の体は言うことをあまり聞いてくれないような感じでして……。
今現在、後から来てくれた奈津にポカリを買ってきてもらっているため、少し安堵しているような感じだ。
お決まりの天国と地獄やら、応援の掛け声や、砂を踏み切る音が俺の頭の中をグルグルと渦巻いてくる。
「何してんだっ!?」
「ぐぉっ!」
後ろから目を手で真っ暗にさせられた。それも少しひんやりしているのでそれが逆に気持ち悪い。
「離せっ!」
その手の持ち主が誰だか検討がついているので手を邪険に振り払った。
俺の頭上には笑みを浮かべて楽しそうな昌人の顔。
あぁ、憎い。憎いね、その顔。
「何だよ、そんな無愛想な顔して俺を見てさっ!」
バンバンと背中を叩いてくるのがやたらとウザい。出来ることならここでずっと一人で寝ていたかった。
——奈津が来るまでの話だけどな。
「お前は元気そうで何よりだな。ラジオ部とは思えねぇぐらいの筋肉たちじゃないか」
「はっはっはっ! そうか? 結構鍛えたりもしたんだよなー」
昌人のことだ。そういうトレーニングが日課ぐらいにはなっているんだろうな。にしてもそのスマイルやめろ。拳が止まらなくなる。
俺が次に出る種目といったら、午前中にはもう無いので少しは安心して構わないようだ。
「昌人、お前午前の部で他に何か種目あるんじゃないのか?」
「おー、あるある」
笑顔で親指を立ててこちらに見せてくる。そのスマイルとそのウザい行動、本当にやめてくれ。嗚咽が出る。
その時、アナウンスが流れ出てきた。
『これより、完全うさぎ飛びを始めます』
「何だそれっ!?」
聞いたことのない種目名に思わず驚かされてしまった。
「あ、これに出るんだった」
「えぇっ!? これに出んのっ!? ていうかもう始まりそうなのにお前は何してんだよっ!」
「てへ☆」
「可愛くない。もう二度とやるな。出ないと俺の握り拳が左右黙っていない」
昌人は俺の肩を何故か二回ほどポンポンと軽く叩くと、陸上部並みの走りで完全うさぎ飛びへと向かっていった。
……完全うさぎ飛びってなんぞ。
それが気になったせいで俺も少し民衆(生徒たち)の中へと紛れ込んでみてみる。
なかなかの盛り上がり具合だな。どれどれ……?
……簡潔言おう。めちゃくちゃシュールだ。
高校生や保護者やいつも怒ってるあの先生とかいつもは弱気なあの生徒や先生、校長までもがうさぎ飛びを必死にやってる。
その中、一人笑顔で競技を楽しんでいる昌人。全くアイツは——っと、バカがもう一人いたようだな。
「んっしょっ! んっしょっ!」
夕姫、お前何してるんだ。つーか妙にエロい。これ、女子がやるもんじゃねぇだろ。
あぁ、なるほど。それでこの盛り上がり具合か。暴風警報がこの手のものに参加したら男共はそりゃ騒ぐわな。
——あんだけ美少女や美女揃いだったらな。あ、美男子も含むか。
……ちょっと待て。夕姫以外に見覚えのある奴がいるぞ……?
「待ちなさいですわっ! 夕姫——きゃぁっ!」
ちょ、稀穂さん……。久しぶりに見たような気がするけど、何でこの種目に出てるんですか……。
稀穂さんは頑張って先を行く夕姫に追いつこうと頑張っているがうさぎ飛びが苦手なのか重心がフラついてばかりだ。
この競技、うさぎ飛びしか出来ないように両足を縛ってあるために動きにくい。つまりとてもしんどいようだ。
「ハハハハッ! ニホンジンッ!? コンナモノデスカッ!!」
まてまて、一人日本人じゃないというか、おかしな黒人がいますけど。これ、通報したほうがよくないすか?
黒人——ご想像通り、ジョイスが笑顔で気持ち悪いことにその豊か過ぎる筋肉でうさぎ飛びをしている。
ダメだ、笑いが止まらねぇ。周りの者たちも笑っている者がいるのはきっとジョイスのおかげでもあるからだろうな。
「ふぅ……おかしなもんみたな」
とりあえずその暑苦しい民衆(生徒ですね、はい)から逃れ、ベストポジションたる日陰の下へと避難する。
その日陰の下で腰を下ろしたのと丁度同時に頬に冷たいという反応が急に起こった。
「つめてぇっ!」
「あはは。お兄ちゃん、お待たせ」
天使と形容しても申し分ないほどの笑顔で俺に微笑みかけ、ポカリを差し出してくれる奈津の姿が俺の隣頭上にあった。
うん。今日も可愛いな。……ナンパしない男がいないか見張っておかなくてはな。言っておくがシスコンではな——
「お兄ちゃんの種目は午前、もうないよね?」
おっと、俺の妄想世界が少しばかりぶっ壊しながら奈津が聞いてくる。
「ん、あぁ」
ポカリを開けて答えた後、ポカリを飲む。
喉の渇いたこの喉にはポカリのひんやりとした冷たさとスポーツドリンクという健康面でもいいものがしんみりと優しく感じる。
「えっとね、今やってる完全うさぎ飛びなんだけど——次に究極うさぎ飛びがあるの」
ポカリを飲みながら適当に「へぇ……」と、相槌を打つ。
「それで、私究極うさぎ飛びに出たいんだけど……二人制らしくって、お兄ちゃん、一緒に出てくれない?」
「へぇ……って、え!?」
ちょっと待った。何だ? 完全うさぎ飛びの次は究極うさぎ飛びがあるのか?
それに何で奈津、それをやりたいと思ったよ。それがお兄ちゃん一番疑問だわー。
「えっと……ダメ、かな?」
しょんぼりと目を落とす奈津。ため息まで吐く始末。
こ、これは……! 俺さっきまで、そのうさぎ飛びを見てて爆笑していた人間ですよ?
だがしかし……人間かどうかの前に、お兄ちゃんかどうかが問題だっ! 俺は、奈津の兄として何かしてやること、してやることは——!
「……分か……った。べ、別に……ぐはぁっ!」
「お、お兄ちゃん!? 大丈夫!?」
あまりの難易度の高さについつい血反吐を吐いてしまったぜ……! だが、俺は負けない。奈津の兄として
「大丈夫だっ! 俺は、俺の出来ることをするのみだっ!」
——出来ることといっても、やるのはうさぎ飛びなんだけどな。
「ありがとうっ! お兄ちゃん!」
「ふふふふっ! 構わないさ!」
うぅ、涙が止まらない。止まらないよぉ……!
こうして俺は、戦場=うさぎ飛びへと駆り出すこととなってしまった。
完全を超えた、究極のうさぎ飛びへと。