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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: メランコリーハート / ( No.124 )
- 日時: 2011/03/13 20:01
- 名前: ゆえ ◆05YJ7RQwpM (ID: mNUslh/H)
「寒いね、まだ」
彼女がそういって、キャラメル色のニットを顔に近づけた。
俺は目を細めて、沈んでいく太陽を見た。まぶしい。
「……もう暦上は春だけどな」
と屁理屈を言うと彼女は「ふふっ」と笑って俺の手を引っ張った。
ひんやりとした俺の手にふんわりと暖かい手が触れる。
公園のベンチに座って、俺らは無言で座っている。
隣で下校中の中学生やおばあちゃんたちが犬を連れて歩いていたりしている。遠くで電車の踏み切りの音がする。
どこかの家で暖かい光が漏れている、そして笑い声。
何気ない毎日だけど、すごく幸せな毎日。
「……もうすぐ、春だな」
俺がぽつりと言うと彼女は、「そうだね」と笑った。
「今大変な人たくさんいるよね」
「……そうだな」
「私。何もできないや」
ぽつりぽつりとつぶやく彼女は泣きそうだ、いや泣いている。
目にはたくさんの透明涙があふれている。
「泣くなよ、馬鹿。
まだ春がきてないだけだ。冬はつらいだろ? 寒いし。
もうすぐ春になる、春になったらきっとみんな笑顔になる。
ちょっと春が来るのが遅くなるかもしれないけど」
彼女はぐっとのどに力を入れ、俺を見て、うんとうなずいた。
「私、コンビニに行ってくるね」
「俺もいく」
彼女はそういって俺の手を握った。
もうすぐ、五時。そろそろ春。
( だいじょうぶ )
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