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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 憂鬱week! / ( No.89 )
- 日時: 2010/07/31 11:30
- 名前: まち ◆05YJ7RQwpM (ID: xixMbLNT)
「手、離さないでね」
彼女がそう言ったから僕は離さなかった。
でも、現実は僕から手を離してしまった。
僕が「ごめん」と言うと、麻奈は何も言わずにただ首を横に振った。何で、という言葉も出ずにかすれた声が「嘘でしょ?」と言った。
ものすごくか細い声だったもんだから、ものすごく抱きしめたくなった、けど僕にはそんなことができる勇気も今は持ち合わせていなかった。
「……俺にはちょっとだめだったんだよ」
「私のことが?」
彼女が僕のほうを向かず、俯きながら言った。
「違う、麻奈は悪くない。ただ、俺には麻奈を好きと言ってられる勇気が無かったんだ」
そう言うと麻奈の透明なまるでビー玉みたいな瞳から涙がこぼれた。もう僕にはぬぐってはやれない涙だった。
「ごめん。麻奈。大好きだったよ、ありがとう」
僕がそう言うと麻奈は涙も流しながらも、にっこりと笑った。
「うん、私も大好きだったよ、またね」
麻奈はそれを言い切るとクルリと僕に背を向けてスタスタと歩いて行った。
どんどん小さくなっていく、麻奈の背中を抱きしめたい、手を握りたい。そう思っても僕にはただ失われた温もりだけが手元に残った。
( 失われた温もり )
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