コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 僕の涙腺を刺激するもの ( No.135 )
- 日時: 2010/10/17 15:08
- 名前: 風菜 (ID: NhY/JZtF)
第12章 「動くんだ、僕の足が、この想いが」
廊下でバタバタと騒々しい足音が聞こえる。
その足音で、僕は目を覚ました。
(何だ……? )
ベッドから起き上がり、目を軽く擦りながら、少しぼやける頭の中で僕はそう思った。
壁に掛けてあった時計を見る。
12時45分。
世間で言う、放課後の時間帯。
「もうこんな時間か……。」
胸の高鳴りが治まらず、何か体に異変が起きているのだと解釈し、保健室で休もうと眠り始めてから約1時間半が経っていた。
「そろそろ行くか……。」
ベッドから降りて、立ち上がった時だった。
「なあなあ、さっき言ってた事って、マジかよ? 」
「本当だって!廊下の方で、やけに興奮した男子生徒二人の声がした。
もしや、さっき聞こえてきた足音の主だろうか。
でもまあ、こんな風に話し込んでる中で、自分がいきなりこの保健室から出たりしたら、ほんの一瞬でも注目される。
たとえ1秒間でも、もうこれ以上今日は注目されたくなかった。
教室の女子で、注目の視線を浴びるのには十分過ぎるほど懲りた。
だから仕方なく、下の男子生徒2人の話し声が聞こえなくなるまで、保健室で待機する事にした。
ついでに、暇なので話を盗み聞きさせて頂こう。
———— 僕は静かに耳をすました。
「でも本当だったらすげーよなあ。だってそいつ、転校生だろ? しかも最近来たばっかの。」
———— 転校生?
僕はそのキーワードに何故か胸騒ぎがする。
「そうだけどさ、あいつだったら有り得るじゃん。ウチのクラスだってあいつの事好きな女子いっぱいいるし。今だってあの転校生と付き合ってるって噂まで流れてるくらいだよ。」
———— 付き合ってる?
———— 噂?
「でも行くに越した事はないと思うぜ。
えっと……、何だっけ、その転校生。」
「『水槻一琉』だろ。」
———— 水槻一琉!?
「そいつと、何人かの女子が、あの泉伊吹を取り合って裏庭でケンカ中。」
男子生徒の驚くべき言葉に、僕は笑った。
胸騒ぎ、的中。
バアン!!!!
急いで保健室を飛び出す。
驚いている男子生徒二人の顔が見えたが、無視してダッシュで裏庭に向かう。
何故自分がこんな事をしているのか分からない。
だが、胸の奥にあるのは、あの時彼女が見せた、唯一の笑顔。
『勿体無いと思うよ。』
あの時に彼女が発した言葉が、僕の頭の中で何度も響く。
同時に、その時に、僕の胸が高鳴ったというのを思い出す。
そして、彼女にそう言われて、とても嬉しかった事も。
そんな事を考えて、必死の思いで走っていたら、いつの間にか裏庭に着いていた。
たくさんの野次馬。
その野次馬の視線の先には、僕がここまで走って来た訳……、彼女、水槻一琉がいた。
彼女の前に、3人の女子生徒が立っていた。
そのうちの真ん中の、おそらくリーダー的存在であろう生徒が、水槻一琉に手を上げたが、簡単にその手を掴まれて、叩かれている。
そうして全てが終わったと思い、後ろを振り返った水槻一琉。
(いや……、違う、まだ終わりじゃない!! )
ちょうど彼女の真上の3階の教室の窓際で、ひっそりと気付かれないよう待機している複数の女子の手には、水を入れたバケツが律儀にそれぞれの手に1つずつある。
周りの野次馬は、水槻一琉と相手の女子3人の行動に目を取られ、誰1人として三階の状況に気付いていない。
僕は何かあると踏んで、走って野次馬の間を抜けていった。
やっと野次馬を全て抜け切った時、あのリーダーらしき女子が叫んだ。
「まだ終わりじゃないわよ、水槻一琉……っ! 」
そして、3階から大量の水が彼女に降り注ごうとしている。
僕は走って、彼女の元へと向かう。
ザバァ!!
僕は彼女に水がかかる寸前で、彼女を庇った。
案外、冷たい。
「水って意外に冷たいんだな。」
思った事をそのまま言うと、僕に気付いたのか、彼女が目を見張って驚いた。
「泉くん……!?」
彼女に向かって、僕は何年かぶりに満面の笑みを優しく浮かべた。