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Re: 僕の涙腺を刺激するもの  ( No.166 )
日時: 2010/10/17 15:24
名前: 風菜 (ID: NhY/JZtF)

「どうして一琉ちゃんがうちの前に居るの? 」
杏香は頭を抱え込み、下を向いて問いかけた。

「二度と私達の前に現れないでって、あの時言った筈じゃない!!! 」

一琉は寂しく言った。

「……伊吹の、お見舞いに来たんです。」

一琉の発した言葉に、杏香はハッとして顔を上げた。

「もしかして……、あの子と同じ学校に通っているの? 」

「はい。今月の半ばに、伊吹と同じクラスに入学して来ました。」
「どうして!? 何で同じクラスなの!? どうして伊吹に近付いていくのよ!!! 」

杏香は叫んだ。

一琉は、か細い声で答えた。

「まだ、伊吹が好きなんです。」

「よくそんな事が言えるわね!! 貴方、自分が何をしたか分かっているの!!? 」

杏香の目から、涙が溢れ出ている。

「はい……。承知しています。」

「じゃあ、貴方には伊吹を愛す権利なんか無いって事も、分かっている筈じゃない!!! 」

杏香の目頭が熱くなってきている。

「零くんだって、結衣菜ちゃんだって巻き込んだのに……。私達家族だって、やっと平穏に過ごせてきたのに、今更のこのこと現れてこないで!! 」

杏香は、まるで何かを振り切るように、頭を振った。

「申し訳ありませんでした……。」
一琉は杏香に向かって頭を下げた。

すると杏香は、一琉の頬に思いっきり強く手の平を振り上げた。

少しして、はじけるような音が響き、一琉の左頬が赤く腫れる。

「もういい加減にして!!! 」

そう言い残し、自宅の門を開け、杏香は家の中へと入っていった。
























「はは……っ!! 」

しばらくして、一琉は短く小さな笑い声を上げた。

「分かってた筈じゃない、杏香さんにああいう態度を取られるって事ぐらい……。今はもう、昔とは違うんだから……! 」

そう言いつつも、浮かんでくるのは、自分がまだ幼かった時の、杏香の笑顔。そして、杏香が焼いてくれたケーキの味。杏香が淹れてくれた紅茶の香り。








『あら、一琉ちゃんいらっしゃい!! 』

『またケーキ焼いたんだけど、食べていく? 』

『よければまた遊びに来てね。』

『気をつけて帰ってね〜! 』











「……っ! 」

一琉の目から、涙が溢れ出て来る。












もうあの頃には帰れないんだ、と、自分の涙が分からせてくれた時だった。