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- Re: 僕の涙腺を刺激するもの ( No.243 )
- 日時: 2010/11/03 11:16
- 名前: 風菜 (ID: /R8fMwix)
第23章 「全てを知るまでの、辛すぎる僕の年月」
「母さん!!!! 」
病室のドアが開いたと思ったら、その間はたったの1秒も無く、吹雪の叫び声がした。
「吹雪……。」
伊吹の母、杏香が、目に涙を溜めて吹雪の居る方向に体を向けた。その杏香の右手には、ハンカチが握られていた。
「い……、伊吹は……っ!? 」
吹雪は、急いでベッドに駆け寄った。
そのベッドに寝かされているのは、まるで亡者のようにしっかりと瞳を閉じた、自分のたった一人の弟、伊吹だった。
このまま永遠に瞳を閉じ、自分達に話しかけてはくれない様な雰囲気だった。だが、ほんの少し、僅かに息をし伊吹の体が上下するのを確認できた瞬間、吹雪の中にとてつもなく壮大な安堵感が一気に押し寄せて来た。
それと同時に、吹雪は気が抜け、床に座り込んだ。
「良かった……。無事だったんだな……。」
胸を撫で下ろし、一息つく吹雪。
「椅子こっちにあるから、座ったら……? 」
杏香の勧めに、吹雪は黙って頷き、椅子に腰かけた。
「父さんと兄貴は、今仕事抜け出して来たってさ。さっきメール来てたから。」
ベッドで眠っている伊吹を見ながら、吹雪が言った。
「無事だって、メールも送っとくよ。」
更に続けて、携帯を開いた。
すぐにメールを打ち始め、少量の時間で送信し終わった。
すると途端に、吹雪の涙混じりの呟きが聞こえた。
「————— 何でこんなことになったんだろう……? 」
それは、杏香もずっと考えていた事だった。
だが、何の情報も皆無で頭を働かせていたのではない。
「きっと、一琉ちゃんの事を考えていたのよ。」
冷たくて、悲しい声だった。
「え……っ? 」
その言葉に、短い驚きの声を上げる吹雪。
「さっきまでこの子、ずっと『一琉、一琉』って言って、泣いていたのよ。だからきっと —————……。」
「何なんだよ!!!!! それ!!!!! 」
杏香の言葉を遮り、吹雪が叫ぶ。
「あいつ……っ、また俺等を苦しめんのかよ!!!!! 」
勢い余って、椅子から立ち上がる。
「伊吹まで、こんな目に遭って……っ!!!!! 」
いつのまにか潤んでいた吹雪の右手には、硬い握り拳が出来ていた。
「なあ……、母さん……。」
大きな音を立てて椅子に座る。
「俺達家族に……、幸せは来ないのかな……。」
「吹雪……。」
杏香の目から、涙が溢れ出る。
「だってさ、いつになっても、あいつはまた俺等を苦しめる。あいつだけじゃない。7年前のあの過去の記憶も ————— 。」
「そんな ————— 、吹雪……っ。」
「そうだよ!!!!! いつだって俺等を苦しめる!!!!! 最近だってやっと忘れかけて来たのに……。どうして思い出させる様な事をすんだよ!!!!! あいつは!!!!! 」
そう叫ぶ吹雪の顔は、怒りに満ちていた。
だが、どこか悲しげだった —————……。