コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re:僕の涙腺を刺激するもの ( No.29 )
日時: 2010/10/17 14:40
名前: 風菜 (ID: NhY/JZtF)

僕がそう思ったのに気付いたのか、それとも気付いていないのかは分からないが、水槻一琉は変わらずに話し続けていた。

どっちにしろ、僕がこんなに他人のことを面白いと感じる事は今までで一度もなかった。

水槻一琉とは、非常に興味をそそられる人物だ。




「じゃあ、泉君が自分のことを勘違いしている残りの理由について、説明していこうか。」

とうの彼女は、僕と同じように机に頬杖をついていた。
また、僕の話の聞き方も多いに変化していた。

さっきまでは、つまらない三流ドラマを見ている気分でいたのだが、今となっては、半ば楽しみながら聞いている。

なおのこと、それも悪くないと思っている自分がいた。

「じゃあ説明していくね。まず、クラスの皆から気味悪がられていることについて。私は、初めて君と会った時に、『オラージュの怨念』のラストシーンを暗唱した筈よね? 」

『オラージュの怨念』とは、あの旧校舎の図書室で、僕が読んでいた小説のことだ。

「あの小説は結構マイナーで、知っている人はごくごく稀にしかいない。私は、本当にあの本が好きで何回も読んで自然と暗記したの。一応言っておくけど、この点については何とも照らし合わせる必要はないわよ。」

そこまで言うと、水槻一琉は僕を指さした。

「貴方は、『オラージュの怨念』を、好んで読んでいる訳ではなかった。では、それは何故か? 」

僕は笑った。
ここからが山場だ。

「貴方は、クラスの人から逃れる為に今まで旧校舎の図書室で本を読んでいた。いわゆる、時間潰しというものね。見ていれば、泉くんは面白い本を読む時に、立って見る癖がある。今持っている小説は、ベストセラー作家が書いたもので、今頬杖をついている本棚は、新しく入荷した本を並べているところ。その小説は近々発売したものだし。」

「へぇ……。」

よくここまで考えたものだと僕は考えた。

「それに、私がラストシーンを暗唱した時に、泉くんはよくこの本の内容が分かるねみたいなことを言ってた。けれど、泉くんが読んでいた時に、小説はまだ最初のページ辺りだった。……あのシーンは初めから読まないと訳が分からないし、一回や二回読んだだけで暗記出来る筈もない。その理由は、毎日あの小説を読んでいたから。貴方にとって、旧校舎での時間は所詮ただのクラスの皆から逃げる時間。読む本なんてどうでもいい。」

笑いは更に増してくる。

面白い。こんなに飽きないストーリーはない。

「教室で教師に暴言を吐いたのも、クラスの皆から逃れる為のものと、クラスの皆の視線が嫌だったから。でも、あの視線は憧れと尊敬の眼差し。女子からは好意の眼差しだった。旧校舎での貴方の行動は、思ったよりも広まってるみたいだし。それだったら、『自分が向けられる視線は、自分が地味だからだ』って泉くんだったら思うだろうからね。『表情がない』というのも、クラスの皆にそう思われていることだろうと、また考えている。多少の冷笑や小馬鹿にするような表情は私に向けるとしても、普段あまり教室にいない泉くんがクラスの人にそんな顔をする訳がない。頭がよくて授業なんか聞かなくてもいいから、憧れがきっと強いんだろうし、女子人気もある。」

そこで彼女は一息ついた。

「泉くん、かっこいいしね★ 」

やれやれ、最後はそれかと僕は思った。




「ということで、推測終了。いかがでしたか? 泉くん。」

水槻一琉は微笑んだ。

僕はふっと笑った。

「お見事。」

頬杖をやめ、本をそのまま置いて、僕は彼女に近付いた。

「全て正解だよ。しかも、誤りもなく……ね。」

僕は彼女の前に立ち、薄笑いを浮かべた。

「それに、僕も一つ、思い出したことがある。」

すると水槻一琉はまた口だけで笑った。

「それは何? 」

明らかに僕の言いたいことが分かっているような口振りだった。
だが僕は、気にせずに言った。
こんなのは計算済みだ。


































「君は、幼い頃からアメリカに移住し、わずか10歳でハーバード大学に入学し、14歳で卒業したという天才少女だと騒がれていた人物だ。」