コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 僕の涙腺を刺激するもの ( No.369 )
- 日時: 2010/12/28 11:55
- 名前: 風菜 ◆feeLWMpK0E (ID: mOKQW.49)
第35章 「野望」
ハッとして、私は振り返った。
だが後ろには誰もいない。
(そんな訳ないか……。)
自分で自分を嘲笑い、私は前に向き直った。
ふと、何だか伊吹が自分の名前を呼ぶような感覚に襲われたのだ。
もう少しでこの世を後にする事となるから、惜しくなったのだろうか?
もはや、私には伊吹に会う権利などないのに。
もう1度息をゆっくり吐き、私は言い直した。
「ではもう1度言います。」
私は父親を人差し指で捕らえた。
「貴方が手に入れようと考えていた物……。それは、伊吹の脳でしょう? 」
「……。」
相手は黙った。いや、『父親』か。
「まず初めに、貴方は伊吹を記憶喪失にさせた。本来ならば、あの崖から落ちても、伊吹は怪我をする程度だった。それを貴方は別の方向で、私達を待ち伏せし、タイミングを見計らって自分から崖に落ち……。」
私は目を見開いた。
「注射で薬を打った。そうでしょう? そしてその薬は、伊吹が損傷していた箇所を激しく壊す特殊な薬……。貴方が開発した、ね。そして伊吹はあっと言う間にそれまでの記憶を失った。そして後から来た零にも、注射を打ってから、崖に落とした。その薬は、人を簡単に植物人間にさせてしまう恐ろしい物。だから零は、あたかも崖から落ちて意識不明になった……。貴方はそれまでの私をずっと監視していたから、こんなにも私達の行動がリアルタイムで分かった。」
父親がガクガクと頷いた。
死ぬのが怖いのか?
私は何度も死ぬような思いをしたよ。
あんたに散々殴られた。痛くて痛くて泣いても殴られた。
大好きなお母さんもあんたのせいで死んだ。
許せる訳がない。
「そしてしばらくして私は高校生になり、貴方は声を変えて電話をしてきたわね。『伊吹くんと零くんを、助けたいかい? 』そう言って。私は藁にもすがる思いだったわ。だから言ったわ。助けてください、と。そうしたら言ったわね。『今、伊吹くんがいる高校を調べた。だから君もその高校に通いなさい。』 ————— どうしてって聞いたら、『伊吹くんの脳移植をする。彼は今、脳のある部分を損傷しているから、その部分を直せば、彼の記憶が戻るよ。だからね、その為に彼の様子を知らなければならない』って言ったわよね。私は驚いた。世界初だもの。脳移植なんて。きっと凄い名医が嗅ぎ付けて、私に電話してくれたんだって、大喜びだった。そして貴方は、私に伊吹途中報告をするよう命じた。そしてその脳移植の事をこう呼ぶようにした。」
私は手を組んで言った。
「『泉伊吹、脳解体の人体実験』」
「!!!! 」
父親が驚いた顔をした。