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- Re: 僕の涙腺を刺激するもの ( No.397 )
- 日時: 2011/01/04 13:36
- 名前: 風菜 ◆feeLWMpK0E (ID: cp3YpwTA)
『るいせん……? 何だよ、それ? 』
幼き俺は腑に落ちないといった顔をした。
『そう。目にある、涙の元。それが涙腺。』
『ふ〜ん……。で? その涙腺が何だって? 』
『今、泉くんの涙腺には、たくさんの涙が詰まっていて、溢れ出しそうです。』
『はっ? 』
急に語り出す一琉を、幼き俺は不審に思ったのだろう、短く声を荒げた。
『なので、今泣かないと、泉くんの涙腺は壊れてしまいま〜す。』
『お前、何言って……。』
『という事で、君の涙腺、私が開いて見せようか? 』
『……はい? 』
まだ不審そうにしている俺をよそに、一琉は大きく息を吸った。
『そんな風に頑張って、それでも悔しくて泣いてるんだから、きっと泉くんは進歩します。だから泣いていいんだよ? その涙はきっと、これからの君の財産に変わる筈だから……。今日だけは、勇敢に戦って、それでも涙をこらえた自分を、褒めてあげてください。』
『—————!? 』
一琉がそう喋り終える頃には、幼き僕の目からは、涙が溢れ出ていた。
そしてきっと脳裏には、アメリカ人の子供達とバスケをした光景が蘇えっているのではないかと思う。
『何で『僕』、泣いて……、お前、何やったんだ? 』
泣きながら驚いている俺の問いに、一琉は少し笑いながら答えた。
『変わった事はしてないよ。ただちょっと、泉くんの涙腺を刺激しただけ……。とでも言うべきかな? 』
その答えに、幼い俺も笑った。
『すっげーーーな、お前!!!!! 気に入った!!!! つーか、決めた!!!! 僕、次にお前に会うまで、絶対泣かない!!!! 』
その言葉に、今度は一琉が驚いたようだ。
『次って……。泉くん、ここ、アメリカだよ? しかも泉くんのいる所って、日本でしょ? 遠くないかな? しかも、また会うまでって……。かなり時間あるんじゃない? 』
『尚更そっちのほうがいいじゃねーか!!!! よし、じゃあ決まりだな!!!! 』
『えっ、決まりって……。』
『今日はありがとな!!!! じゃーな!!!! えっと……、一琉!!!! 』
と、言い残し、幼い俺は去っていった。
「!? 」
目が覚めると、父さん、兄2人、そして結衣菜がいた。
「良かった。伊吹、目を覚ましたんだな。」
吹雪兄の安堵した声が聞こえた。
「兄貴……。俺……。」
朦朧とする意識の中、俺はふらふらと立ち上がった。
「お前、いきなり倒れたんだよ。なんかあったのか? 」
心配する響貴兄の声を聞きながら、俺は言った。
「なあ兄貴、俺、1回でもいいから4歳の頃、アメリカに行った事あるか? 」
急な俺の問いに、兄貴は戸惑いながら答えた。
「え? アメリカ……? ああ、あるよ。ちょうどお前が4歳の頃に。」
「その時俺、地元の同い年ぐらいの奴とバスケやって負けて、悔しい顔しながらどっかに失踪しなかったか? 」
ポンポンと出される質問に、兄貴は頷きながら答えた。
「ああ……。そんな事もあったな。しかしお前、よくそんな事覚えてんな。」
感心する兄貴を横目に、俺は考えた。
(やっぱりさっきの映像は、本当だったのか……!!!!! )
俺はまた、頭を抱えた。
(じゃあ思い出してないって、あいつが言ってたのは、この事か!!!! でもまだ……、何か足りない気が……。)
俺はそう考えながら、さっきの映像のとある場面を思い出した。
————— 『変わった事はしてないよ。ただちょっと、泉くんの涙腺を刺激しただけ……。とでも言うべきかな? 』
その言葉に、俺は考えさせられた。
「涙腺……、刺激……、俺……。」
そうぶつぶつ呟きながら、俺は言った。
(『俺の』……。いや……。)
あの映像の中で、自分の一人称は『僕』だった事を思い出しながら、俺は言った。
「『僕の涙腺を刺激するもの』……。」
そう呟くと、俺は走り出した。
「おいっ!? 伊吹っ!? 」
後ろの兄貴の声も、俺には聞こえなかった。
俺は、無我夢中で走り出した。
赤く燃える炎が立ち込める廃墟へ —————。