コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 僕の涙腺を刺激するもの ( No.91 )
- 日時: 2010/10/17 14:55
- 名前: 風菜 (ID: NhY/JZtF)
第10章 「自身も知らない気持ち、才女の闇」
「だから、もう少し自然にやればいいのよ。」
「それが出来たら、僕は今頃君にこんな相談を持ちかけて来てないよ。」
食堂で、僕は水槻一琉に昼食を摂りながら相談話をしていた。
勿論、僕達を悲しそうな目で見たり、水槻一琉を凄い形相で睨む女子もいる。
そればかりか、何を考えているのかは分からないが、ニヤニヤした表情で僕達を眺めている男子もいた。
そんな事は気にせず、僕は相談話を続けた。
「疲れるんだよ、あんな奴等に受け答えしたり、挨拶をしたりとか。」
「今までそんな事しなかったからでしょ。それに、内心でこう思っているのよ。『こいつらはバカだ。こんな奴等に付き合いたくない』ってね。気付いてないかもしれないけど、泉くんの精神はそういう風に考えてるの。」
「このまま続けてたら、いつか僕、過労死するよ。」
サラダを口に含もうとしながら、僕は言った。
「そんな訳ないじゃない。過労は身体の疲労によってなるものなのよ? 」
彼女は甲高く笑って、僕にそう言った。
「じゃあ何? 鬱にでもなると? 」
「なるとしたらね。」
僕はため息をついた。
「相談相手を選ぶのを誤ってしまったんだと、解釈してもいいかな? 」
「でも、私しか泉くんの本性を知らない。御両親にも、こんなおかしい計画を実行しているなんて、到底言えないんじゃない? 」
僕は、本当に鬱になるかと思った。
—————意味もなく女子の相手をするのを毎日続けて、水槻一琉に相談して愚痴を零しても、一歩先の発言をされるだけ。
死にたい……。
が、死ねない。これが現実というものだ。
僕が早くも昼食を全部食べ終わり、食器を置きに行こうとした時だった。
「でもまあ、今の泉くん本当のカッコいいし、勿体無いなあって思うよ。」
後ろで水槻一琉の声が少し大きく聞こえた。
「!? 」
僕は驚いて、後ろを振り向いた。
「この計画にメリットがあるとは言えないけど、このまま私利に従ってまた元の態度に戻っちゃえば、その容姿も宝の持ち腐れになるし、自分を生かしていかなきゃ、さっきも言ったけど、本当に勿体無いよ。」
彼女がそんな事を言うなんて……。
と、少し面食らいながらも、僕の心では、『勿体無い』と言われた事に素直に嬉しさを感じていた。
滅多に人に褒められた事がないからだ。
「根拠はなくて納得しないかもしれないけど、泉くんならきっと、皆に自然に、心から親しくなれる時が来るよ。」
彼女にしては珍しい、満面の笑みを浮かべていた。
僕はその笑顔に、何故だか知らないが、胸が高鳴った。
自分の顔が見る見るうちに赤く染まっていくのに自分で気付き、僕は急いで後ろに振り返った。
そして様子がおかしい事に気付かれないよう、いつもの声で告げた。
「それは……、初めて言われた言葉だ。」
まだ胸がドキドキ言っているのに気付かないふりをし、歩いて食器の回収口に向かう。
「ありがとう……、と、言うべきだな。」
水槻一琉がその言葉に答えたのか答えなかったのかは不明だが、僕はそのまま歩いていった。
だが、何故だか分からないが、動悸がもの凄く早かった。
そして、得体の知れない、今まで感じたことのない気持ちを、抱えていた。
——————夜——————
「もしもし。はい、そうです。私です。」
一琉は、誰かに携帯で電話をかけていた。
「ええ……。計画はこのまま順調に進むと見られます。」
壁に寄りかかって、一琉は続けた。
「ターゲットが我々の考えた通りに行動してくれれば、我々の研究は格段に進歩しますよ。……勿論、忘れてなんかいませんよ。」
一琉は窓に映る三日月を眺めて言った。
「『泉伊吹脳解体の人体実験』。」