コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: しつ恋 ( No.9 )
日時: 2010/06/18 12:46
名前: 蒼雅 ◆CwIDAY6e/I (ID: ztRXnpN9)
参照: http://loveandstar.blog27.fc2.com/

03 *雨の中

「結局……雨、ね」

さっきまで晴れていた外は、いっきに水浸しになっていた。
結構、降りが強い。
あーあ、せっかくの制服が。

クラスが帰りの挨拶をして、ザワザワし始めた頃、皆に紛れて戻ってきた。

「あ、今日、お前サボったろ?」

「はぁ?」

またイキナリ声をかけられた。
今日は声をかけられることが多いな。
とりあえず、声のしたほうを見る。
何だ、さっきの木下って人か。

「だから、サボったんだろ?お前、いなかったし」

めんどくさい奴だ。
ここは適当に答えて、どっかに行ってもらおう。

「さぁ、木下には関係ないな」

そうやって、通り過ぎようとした。

「お、名前覚えててくれたんだ〜。お前みたいな人は大抵名前忘れてると思った」

「失礼ね。バカじゃあるまいし」

振り返らず、言う。
木下は笑いだした。
何が可笑しいんだ。

校門に行くと、やっぱり、傘を忘れていた人が結構いたらしく、傘をささずに急いで帰る姿を見かけた。
わたしは特に何の躊躇もしないで、靴を出し、外に出た。
思ったより、降っている。
家までは走れば大体十分ぐらいでつく。
十分か。長いな。

「あの、傘忘れたんですか?」

また声かけられた。
もういい加減嫌だ。
何度目だろうか。
五回目ぐらいかな。
まぁ、この声は聞いたことがある。
女の子の声だから……安部さんだろう。

「まぁ……。忘れた、だね」

「一緒に帰る……?その、邪魔じゃなかったら」

「別に、邪魔じゃないけど。安部さんこそ邪魔じゃなかったら」

「いえ……!ぜんぜんです」

なんか物好きな子だなー。
そう考えていたら、安部さんが近づいてきて、傘を差し出した。

「きっと少し雨にかかってしまうかもしれません。ごめんなさい」

「別にいいって。いれてもらえるだけで助かる」

「ありがとうございます」

安部さんはニコッと笑った。
まぁ、可愛い子だし、いい子じゃない?
多分モテるんじゃないの?
こうして、安部さんとわたしは歩き始めた。
 
しばらく沈黙が続く。
だが、沈黙を破ったのは安部さんだった。

「あの、わたしに見覚えありませんか?」

「え?」

見覚え?
特に……見覚えとかは……。

「去年、同じクラスだったんですけど……」

「あ、あ〜、いたね」

ほぼ棒読みのように言った。
別に思い出さなかったわけじゃないけど。
安部さんみたいな子、いや、安部さん、確かにいた気がする。

「で、あの、こんなこと言うのも何ですけど……。わたし、麻村さんに憧れてるんです」

「は?」

こんなわたしに憧れるって?
安部さんに憧れられるような人じゃないよ、って言いたかったが、少し聞いてみることにした。

「その……わたし、思ったことをズバズバ言えなくて……。麻村さんは思ったことズバズバ言えるでしょう?」

「そんな風に見えるのかね?」

「はい」

キッパリ言っちゃってるよ。

「わたしは……、何でも話を聞いちゃって、長く自分の意見を話したことが無いんです。多分、こんなふうに言うのが初めてかもしれない……。しかも、麻村さんは他の女子みたいにキャーキャー騒ぎませんよね?わたしはそういう女子に紛れて一緒に言ってますけど……。実は、あんまりそういうの好きじゃないんです」

「何が言いたい?」

長すぎる話なので、ここは単刀直入に言ってもらおう。

「その……」

安部さんはもじもじしていた。
顔が赤くなっている。

「どうしたら、麻村さんみたいに、かっこいい人になれますかっ!?」

「えっ」

意外な答えが。
「友達になりたいです!」みたいな、ことかと思ったけれど……。

「わたし、あんまり可愛いとか、言われたくないんです。かっこいい人に……そう、麻村さんみたいな人にずっと憧れていたんです!どうしたら、そんなにかっこよくなれるんですか!?」

まぁまぁ、すごい子だね。
わたしは、特にかっこいいを意識してやってるわけじゃないけど……。
わたしは、ふー、と息を吐いた。

「別にわたしはかっこいいを意識して、やってるんじゃない。これが“わたし”だから」

「?」

「わたしが、思ったことをズバズバ言ってるのは、相手に勝手にわたしと違う人を想像してほしくないから。要するに……わたしは、こういう人だよってアピールしてる。今日、サボったのも……まぁアピールみたいなもん。アンタは他の女子と一緒にキャーキャー騒がされてる、みたいな事言ってたけど、それは、その女子達にアンタの勝手な想像をしてるから。わたしも、最初、アンタを見たときは可愛い子だからきっとモテるとか、女子と一緒にいたりするのが好きなんだろうと勝手にアンタの想像してた。でも、さっき、サンタが本当のことを話したから、アンタの想像が大分変わった。今は……少しかっこいいと思うよ?」

安部さんは黙っていた。
わたしは構わず続ける。

「安部さんが、自分の意見を言えないのは、他人にこう思われたらどうしようって、思って怖がっているから。そんなんじゃ、勝手に安部さんの想像をするに決まってる。怖がるな。真っ直ぐ、単刀直入に言え。相手がどう思おうと気にするな。だから、安部さんは、わたしみたいになりたい、なんて思わなくていい。わたしが言えることはこれで終わり」

安部さんはずっと黙って、地面を見つめていた。
わたしも黙りこくる。
ずっと沈黙が続いていたが、安部さんは意を決したように、言った。

「ありがとうございます……!何だか、胸に染みました!これからは、勝手な自分のイメージをさせないように頑張ります!」

「うん、その意気だよ」

わたしは本当に小さく笑った。
安部さんが気づくかわからないけど。
そのとき、雨がやんだ。
雲は相変わらず灰色だが、すぐに晴れそうだ。

「じゃ、わたし、もう家近いし、じゃあね。送ってくれてありがと」

「はい!色々ありがとうございました!さようなら!」

何だか後輩といる気分だ……。
あの子がどんなふうに変わっていくかは、どうでもいい。
でも、安部さん、これだけは言う。
いくら、ズバズバ言うわたしでも、言えない事が色々ある。
一種の照れ隠しだね。
だから、心の中で言う。





          頑張れ。