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Re: おてんばアリスの策略! ( No.2 )
日時: 2010/06/20 17:34
名前: はるた ◆On3a/2Di9o (ID: V32VFdCN)

 もう消えちゃいたいな、彼女は悲しそうに笑った。
それから三日後のことだった。彼女が学校の屋上から飛び降りたのは。

 別に恋愛感情を持っていたわけじゃなかった。むしろ、同じクラスだということをつい最近初めて気づいた。
彼女は大人しく、弱々しい性格だったため、虐めの対象となった。
暴力など、そんな過激なことはしなかった。ただただ、クラス全体が彼女の存在を無かったことにする。
物を隠すことや、机に落書きをすることは絶対しなかった。先生にばれると問題になるから。

 俺は彼女の名前もぼんやりとしか覚えてなかった。
虐めに参加することは無かったし、じゃあ味方だったのかと聞かれると肯定は出来ない。
必要な時は話しかけるし、それ以外のときは赤の他人。それだけだった。きっと向こうも俺のことはよく覚えて無いだろうし、それで良いと思う。

 彼女を見かけたのは放課後の教室。
忘れ物を取りに教室に戻ると、彼女は一人で先生に頼まれたのか、プリントの整理と修正をしていた。
 ホッチキスで紙を止める音が教室に響いている。そして、彼女は俺に気づき、手を止めて
「あ……藤田くん」
 と細い声で呟いた。長い前髪に隠された顔は、クラスでギャルに憧れている女子より綺麗だった。
何で彼女と話し始めたのかも分からない。特に会話の内容を鮮明に覚えているわけでもない。
だけど彼女は思っていたより、弱々しくなんて無かった。そりゃそうだ、本当に弱かったらきっと不登校になるなり転校するなり何か逃げ道を作っていたはず。別に逃げることが悪いとは思わないが、彼女はそれでも毎日学校に来ていた。

「ごめんね、藤田君。あたしと話してるとこなんて人に見られたら、きっと藤田君も悪く言われちゃうね」
 彼女はそう言い、悲しそうな笑顔を見せた。そして、
「……もう、消えちゃいたいな。虐めはもう慣れちゃって、辛くなんて無いんだけど、何と言うか息苦しい。世界がね、狭く感じるの。あたしはもっともっともっと広いところで自由に生きたい、だから……」
 そう言って彼女は涙を零した。
クラス中から無視されても、聞こえるような声で悪口を言われても決して零さなかった涙を。
俺はそれを拭うことも、彼女の小さい体を抱きしめることも、気の利いた台詞をかけてやることも出来なかった。
あのとき何か言葉をかけてやれば、何かしてあげられたら。彼女は死を選ばなかっただろうか。
答えが見つからない、見つかるはずが無い。

 それから彼女を率先して虐めていた女子は転校して行き、何事もなかったかのように世界は平穏を取り戻した。
 俺は彼女が死んだ、と聞いても涙は溢れてこなかった。彼女は広い世界に行ったのだ。こんな狭苦しい世界を抜け出して。
『広い世界は、ここより心地良い?』
 絶対返事なんて返さない彼女に向かって、そう問いかけた。それはむなしく、空気中に霧散した。

(彼女は消える)