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Re: おてんばアリスの策略!前野さんとあたしと嫉妬 ( No.59 )
日時: 2010/06/25 16:55
名前: はるた ◆On3a/2Di9o (ID: V32VFdCN)


 ジージーと蝉が鳴いていて、照りつける太陽は馬鹿みたいに暑かった。汗は滝のようにあふれ出し、体中の水分が抜けていってしまうんじゃないかと思うほどだ。俺の家の庭に何故か昔から設置してある、小さなベンチに腰掛けている幼馴染はあまり日焼けしておらず、真っ白だった。
「暑いな!」
 隣でラムネの瓶を傾け、ラッパ飲みしている幼馴染、綾乃にそう話しかける。綾乃は俺のほうをちらっと見ると「言われなくてもそんなこと分かってるって」と涼しげな声で言った。

 青い空に浮かぶ雲はわたあめみたいで、縁日で売られているのを思い出して思わず食べたくなった。手を伸ばすけど、当然届かない。
もう夏休みが始まってから一週間がすぎようとしていた。意外と一週間というものはあっという間で、最初は“始めの一週間で宿題全て終わらせる”と宣言していたけど、結局手付かずじまいだ。
それは綾乃も同じみたいで、結局八月三十一日にまとめて終わらせるんだろう。毎年恒例だ。

「中学校生活最後の夏休みだな」
 男勝りな口調で綾乃が言う。綾乃は割と女の子らしい顔立ちをしているのに、女の子らしくあることを嫌った。スカートよりズボン、ピンクよりも青。肩につくかつかないかくらいまで伸ばした髪は、日焼けして茶色っぽくなっている。
「でも来年も何も変わらないんだろうな、あたしとあんた」
 綾乃はそう言って悪戯っぽい笑みを見せる。ベンチに置いてある、ラムネの瓶の中に入っているビー玉を揺らして音を鳴らす。
「多分来年もこのベンチに座って、暑い暑い言ってるんだろうな。それで蝉の抜け殻とかカブトムシとかクワガタとか探してるんだろうな」
 俺がそう言うと綾乃はハハッと笑い、
「高校生になっても?」
 そう言った。少し顔が曇ったのは気のせいだろうか。

「あたし達、高校生になっても変わらないで居られるのかな。またこうしてベンチに座ってラムネ飲んで、馬鹿みたいなこと言ってられんのかな?」

 珍しく、弱気なことを口にする綾乃は何か不安そうな顔をしていた。
「何言ってるんだよ、何も変わらねーだろ。来年もこのままだよ。綾乃と俺はラムネを飲んでるし、暑い暑いって騒いでる、絶対」
 そう言うと綾乃は「だよな、そうだよな! 当たり前だよな!」と笑った。白く並びの良い歯を見せる。
「あんたが、何か変わっていく気がして怖かった。最近急に背が伸びたし、声も低くなるし。あたしとは違うんだと実感したら……って馬鹿みてぇだな!」
 綾乃はラムネをいっきに飲み干した。中に入っているビー玉がカラカラと乾いた音をたてる。

「見た目は変わっても、中身は変わらないでお願いだから」
 小さな声で呟いた彼女の声が、いつまでも耳に残っていた。
まだ夏休みは始まったばかりだ。

(夏休み)