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- Re: 憂鬱メアリー | 相思相愛ラバーズ! ( No.74 )
- 日時: 2010/06/29 17:25
- 名前: はるた ◆On3a/2Di9o (ID: V32VFdCN)
幼馴染の彼氏が死んだ。
信号無視したトラックに撥ねられ、即死だったそうだ。
幼馴染——春名は彼氏が死んでから、一切笑わないし言葉を発しなくなった。人形みたいに無表情。昔のよく笑い、明るくて友達も多かった面影は一切残さず、別人のようになってしまっていた。
*
「春名」
綺麗に片付けられている春名の部屋、小さな白いソファーに腰掛ける春名の隣に俺も腰掛けた。
掠れた声で彼女の名前を呼ぶ。一切反応を示さず、俯いたままだ。
幼馴染だし、男女の中にしては仲良かったこともあり、部屋へは春名の母親がいつも通してくれていた。泣きはらして赤くなった目を見せる母親は繰り返すように「彬ちゃん、春名をお願いね」と鼻声で言うのだ。俺は無言で頷くことしか出来ない。だって何をお願いされてるのかもよく分からないのだから。
「なあ、春名」
「……」
「今日は天気がいいな、ちょっと最近暑くなってきたな」
「……」
「そろそろ蝉も鳴き始めるよな、昔捕まえて遊んだっけ」
「……」
何度繰り返せばいいんだろう。彼氏が死んでから、もう一ヶ月が過ぎようとしているのに、春名に変化は無かった。食事もろくにとっていないらしく、その体は骨ばって見ているこっちが痛々しかった。目の下には眠れて居ないんだろうか、大きな隈がある。
「春名……」
その時だった。
「彬」
え? と思わず間抜けな声をあげてしまう。
しばらく声を出していなかったからだろうか、掠れてはいるけれど懐かしい声。それは間違いない、春名のものだった。
「彬」
彼女はもう一度声を発する。俺の顔を見て、俺の名前を。
だけど久しぶりに紡がれた言葉はあまりに残酷で、
「あたしを、殺して」
今にも泣き出しそうな、震えた声。ああ、彼女はもうとっくに壊れていたのか。
「やだ」
そう春名に言い放つと傷ついたような表情をして、
「あのね、自殺だと天国にはいけないんだって。だからあたしは天国に行くために誰かに死なせて貰わないといけないの、ねぇお願い彬。あたしを殺してよ」
ついに春名は涙を零した。だけど俺はもう言葉を止められない。
「俺は、春名を殺したくない」
「何で、彬、ねぇ、」
「俺は春名が好きだ」
悲痛な顔から一瞬にして驚愕の表情へと変わる。そうだ、俺は春名のことが好きだった。春名の彼氏よりずっとずっと前から好きだった。
だけど春名の思いは変わらなかった。
「好きなら尚更お願い、あたしは彬じゃなくて章也を選んじゃったの。もうこの思いを壊すことなんて出来ないのよ」
章也が好きなのあたし、と涙を零しながら訴える。そうか、春名は俺なんか見てなかったのか昔から。俺ばかりが好きで、俺ばかりが意識して、俺ばかりが。
「ごめんな春名」
そう言って春名の首に手をかけた。それはやけに細く、冷たい。
「——来世では、あたし彬のこと愛してるわ絶対」
その言葉を最後に、もう何も分からなくなった。壊れていたのは春名だけではない。俺もだったのだ。
結ばれない恋なんて、ロミオとジュリエットだけで十分だっただろ?
(壊れたロミオとジュリエット)