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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 憂鬱メアリー | 泡沫サイダー1/3 ( No.109 )
- 日時: 2010/07/07 21:10
- 名前: はるた ◆On3a/2Di9o (ID: L0k8GmDX)
以前住んでいた街は、現在住んでる街から言うほど遠くなく、そしてとてつもなく緑が多かった。
街路樹は四季の変化を感じさせて、家の近くにあった丘は探せば普通にカマキリとかトカゲとかは捕まえられたと記憶してる。
背の高いビルなんて無く、閑静な住宅街の中に、あたしの家があった。隣の家は気の良いおばあちゃんとおじいちゃんが住んでいて、たまに孫と息子夫婦が遊びに来ていた。そして向かいの家は幼馴染が住んでいて、何度も遊びに行った。
——こんなことは細かく覚えてるのに、どうして幼馴染の顔も名前も思い出せないのだろう。
床に散らばった思い出の品々を見てみる。空気の抜けたビニールの剣は、最初グレーだったはずなのに色褪せ、白っぽくなっていた。ゲームも一昔前のカセット、きっとやってる人なんてもういないだろう。
「あ」
思わず声をあげてしまう。くしゃくしゃに潰れたビニールの剣の柄の部分に、雑な字で名前が書いてあったのだ。
“うらざき しのぶ”
幼稚園児が書きました! と宣言しているかのような字は、いっきにあたしの記憶を呼び戻した。
そう、しのぶ。確か浦崎忍。あたしはしのくん、って呼んでた。しのくんはあたしのこと、名前の七実からとってナナって呼んでた——
しのくん、しのくん。
昔の自分の声がエンドレスにリピートされる。
ああ、別に恋してたわけじゃない。だけど会いたい、凄く。
そう思うと、いつの間にか家を駆け出してた。
(泡沫サイダー)2/3
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