コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 憂鬱メアリー |虫食いハート ( No.124 )
- 日時: 2010/07/10 12:38
- 名前: はるた ◆On3a/2Di9o (ID: L0k8GmDX)
息を吐く、とてつもなく黒く濁っている気がした。
夜道は凄く暗くて、この道は街灯もあまり役目を果たしていない。だから月明かりぐらいしか、頼りに出来ない。
コンクリートをスニーカーで踏む、乾いた音がたつ。もう寝静まってしまったのだろうか、この辺にある家全ての電気が消えていた。まぁ、当たり前か。携帯を確認するともう午前三時半。以前ならワールドカップを見ている人がいただろうけど、もう日本は負けたし関心は薄れていったのだろう。
“あたし、今日死ぬから”
そんな電話がかかってきたのは、時計の針がもう一時をまわってからのことだった。その時俺は、風呂から上がってタオルで髪の毛を適当に拭いていた。
いきなり携帯の着信音が部屋に鳴り響いたのだから、驚いたのは言うまでも無い。音量調節後でしなきゃなーとか思いながら電話に出ると、愛しい彼女の声がした。
『……奏也』
ぽつりと呟くように俺の名前を言う彼女の声は、少しいやかなり震えていた。
何? と聞き返すと彼女ははぁ、と一つ息をついて
『あたし、今日死ぬから……ごめんね』
それだけ言って、電話がプツッと切れた。
体中の血液がザァッと冷めていく感じがした。風呂上りだというのに、寒気がする。そう考えた頃には家を飛び出していた。
*
——相変わらず、夜道は真っ暗だった。月も雲に隠れて全く見えなくなってしまった。
小枝か何かを踏んだのだろうか、パキッという音がした。乾いている、小さな音。
手首を切って、それを水につけようとしている彼女は、合鍵で部屋に入ってきた俺を見て「奏也……!」と泣きすぎて少し掠れた声でそう言った。
血まみれの彼女の左腕。“もう怖くて”それだけ言った彼女は泣き崩れて、俺はその小さな背中をあやすように叩いた。死のうとした理由は全く分からない、分かりたくも無い。俺は弱いから。
彼女の部屋にあったソファーに座らせてとりあえず止血をして、包帯をぐるぐると左腕に巻きつけると、彼女は弱々しげな笑みを見せ「ごめんなさい。もう別れてください」と呟くように言った。
思わずえ? と聞き返してしまうくらい、俺は動揺していた。
彼女は目を伏せ、ソファーのふちを指でなぞりながら、
「大丈夫だよ。もう死のうとなんてしない。だから、別れて?」
嫌だ、絶対嫌。そう言ってやりたかったが、口から出た言葉は「分かった」——
月はもう、隠れて出てこない。
吐いた息はきっと黒い。まだ十分に乾いてない髪が風に揺れて、ぱさぱさと音をたてていた。
翌日、彼女が自殺しているところが発見されたらしい。
結局彼女は嘘を吐いていたのだ、俺に。手首を切って、水をつけて、失血死。何で? 尋ねても答えてくれる人間はもういない。
(嘘つき彼女)