コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 憂鬱メアリー |曖昧だけど確かなこと ( No.164 )
日時: 2010/07/12 18:24
名前: はるた ◆On3a/2Di9o (ID: L0k8GmDX)


(I need you)

 愛して愛して、あたしを愛して。
彼女の口癖だった。涙を零しながら、造型の綺麗な顔をぐしゃぐしゃにして、壊れた人形みたいに呟き続ける。
別に酷いことを彼女に対してしているわけじゃない、暴力も振るったことないし、酷い言葉を浴びせたこともない。普通の彼氏彼女だった、はず。
だけど彼女は俺と少し衝突するたび、泣き出した。些細なことでも狂ったように「愛して」と連呼する。明日のデートはどこに行くかということで揉めたときも、彼女はわんわん泣き出して頭を抱えて叫び声をあげた。俺は何も出来ず、ただ立っているだけ。
愛してるよ、ちゃんと愛してる。そう言ってやりたいのに、うずくまる彼女に。だけど声が震えて掠れて出ない。愛して、愛して。泣き叫ぶ彼女が酷く可哀想で。

 愛してよ、もっと愛して。凄く愛して欲しい、苦しいくらいに。彼女はそう言って俺に抱きつく。……あれ、腹が何か冷たい、そして鈍い痛み。
——ナイフで刺されたと気付いたのは、どれぐらいの秒数がたってからだったろうか。

「愛してくれないなら、いらない」

 涙で歪む彼女の顔が、さらに歪んで赤く染まる。
言えなかった愛してるも、今なら言える気がした。

(I need you)