コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 憂鬱メアリー |先生 ( No.206 )
- 日時: 2010/07/24 17:37
- 名前: はるた ◆On3a/2Di9o (ID: L0k8GmDX)
(白いライン)
白球がグローブに吸い込まれてく。パンッという音が校庭で何度も鳴る。凄いなぁ、どうやったらあんなスピードで球が飛んでいくんだろ。あたしは校庭の隅にぽつんと置かれているベンチに座り、そんな光景を眺める。運動してないのに馬鹿みたいに暑い。運動している部員達は、どれだけ暑いんだろうなぁと思わずため息が零れた。
好きな人が野球部にいたから。そんな単純すぎる理由で、あたしは野球部のマネージャーになった。ルールとかも分からないし、道具の名前だってろくに覚えてない。だけどやる気だけは人一倍ある——はずだった。
実際は、ユニフォームを洗濯するとき、洗剤を使いすぎて少し臭くなってしまったりとか。少女漫画っぽく、部員全員にレモンの蜂蜜漬けを作ってみたら、蜂蜜の量が足りなくてただのすっぱいレモンになってしまったりだとか。
——大好きな彼のために何かしたかったのに。あたしは何にも出来てない、頑張って一球一球を投げて、打ってるこの人たちのためにあたしは何も——
「広瀬!」
その声にハッとして顔をあげる。いつの間にか休憩時間になってたみたいだ。そしてあたしの名前を呼んだのは他でもない、大好きな——
「安藤、君」
彼はタオルを肩にかけ、あたしに笑いかける。
「大丈夫か? 暑いし、座ってるだけじゃ暇だろ」
安藤君はそう言ってスポーツドリンクの入った、冷たいペットボトルをあたしに差し出してきた。わざわざ自動販売機で買ってきてくれたみたいだ。
「ありがと……」
安藤君の優しさに泣き出したくなる。もっともっと、役に立ちたい安藤君の。
安藤君は爽やかな笑みを見せるとあたしの頭に触れて、
「いつもありがとな、広瀬。皆口には出さないけど、お前に感謝してるんだぜ」
そう言って、大きな手でくしゃくしゃと撫でてくれた。体中の体温がいっきに上がって、沸騰するかと思った……触れられた部分が、特に熱い。
そして、
「お前のそういうとこ、俺かなり好きだぜ」
そんなこと、安藤君は何の躊躇いも無く言うからあたしは。
「あたしも好きです、安藤君のこと」
小さくつぶやいた声に、彼は驚いた表情を見せた。休憩時間だというのに、バットで球をうつ音がする。掛け声と、話し声が交錯して、あああたし告白したんだとやっと実感した。
安藤君は、顔を驚愕の色に染めていたけど直にあたしを見て笑って、
「俺も、好きだ」
——校庭に引いてある石灰のラインが、風で少し舞う。砂が跳ねる音がする。青い空には白い雲が浮かんでいて、やっぱり暑い。太陽も輝いているというか、熱気を放射しているようにしか感じられない。
——初めて繋いだ手が熱くて。スポーツドリンクの冷たさも忘れてた。
(白いライン)
お題提供:紫雲さん「青春恋愛」