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- Re: 憂鬱メアリー |サマーバケーション! ( No.242 )
- 日時: 2010/07/24 17:40
- 名前: 七海 ◆On3a/2Di9o (ID: L0k8GmDX)
シャトルを打つ音がする。その中でもスパァンッと一際大きい音がして、上田君がまたスマッシュを決めたんだなとすぐ分かった。
あたしはバドミントン部に所属していて、夏休みの間もこうして練習をしている。バドミントンは風が入ってきてはいけないので、窓なんかを閉め切ってやるから多分外のスポーツより暑い。それに楽そうに見られがちだけど、意外と持久力が必要で上手い人とやればやるほど疲れる。
「暑いね、里子ー! 汗が凄いよ」
休憩中、親友でもある秋がそう言ってあたしにタオルを差し出す。それを「ありがと」と言って受け取り、顔を拭いた。
「上田君凄いね、スマッシュ! 見てるだけで凄い気持ち良いよね」
そう言うと、秋はえへへと顔を緩ませ「あたしの彼氏ですから」と笑った。凄く幸せそうで、ピンク色のオーラが出てそうだ。——あたしの彼氏、その言葉に胸が言い表せない痛みを訴えた。秋は尚も幸せそうにニコニコしている。
あたしは上田君が好きだった。
中学のときから好きで、告白なんてする勇気は無かったから秋が『あたし上田君が好き!』と言った時は、素直に応援するつもりだった。——だけど。
自分の気持ちを抑えるのがこんなに辛いことなんだって初めて知った。秋が上田君のことが好きって言った時、どうして『あたしも好きなんだ』って言えなかったんだろう。後悔が波のように押し寄せて、消えてくれない。
秋は何も悪くないって分かってた。あたしと同じように上田君のことが好きで、上田君も秋のことが好きだっただけ。うじうじしてるあたしより、秋のほうがよっぽど凄い。告白なんてしちゃうんだから。だからあたしは、秋のことを嫌いになんてなれなかった。
またスマッシュの決まる音がする。秋は「あっ」と声をあげ、さらに幸せそうな顔をした。あたしは一つ溜息をついて、キンキンに冷えたスポーツドリンクを飲んだ。頭が痛くなるくらい、いっきに。
(境界線を超えられない)
お題提供:KEIさん「宿敵なのになぜか憎めない」「AはBのことをよく知っているのにBはAのことを完全に忘れている」