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Re: 白雪姫はりんご嫌い ( No.267 )
日時: 2010/07/28 15:22
名前: 七海 ◆On3a/2Di9o (ID: L0k8GmDX)


 そのとき俺は確か小学校五年生で、宿題なんて存在を忘れて夏休みを満喫していた。毎日六時に起きて近くの公園に行きラジオ体操をするのが日課。そしてそれが終わったあと、家で兄とゲームをやりながら昼になるのを待つ。そして昼になると外へ出て蝉取りをしてみたり、近所の友達を集めてキックベースやハンドベースをしてみたり色々することはたくさんあった。思えばあの頃が一番楽しくて、何と言うか、夏らしさを感じてたんだろうな。
 その日も俺は時計の針が一時を指した頃、家を飛び出して公園へと向かった。公園に行けば大抵友達の一人や二人はそこに居るはずなのだ。だけど公園の入り口の門を通ったところで、公園内に知ってる友達の姿は見受けられなかった。何だ、皆いないのか……つまらないやと溜息をつき、仕方が無いので誰かを待ってようとベンチに座ったときだった。

 一言でいうなら、線の細い美少女。同じ年くらいだと思うけど、少し大人びた表情で物憂げな大きな瞳が目立つ。小さな頭にかぶった麦藁帽子が凄く似合っていて、そして日に焼けていない肌が眩しいほど白い。肩甲骨あたりまで伸ばした色素の薄い髪は風に靡いて、サラサラと音が聞こえてきそうだ。そんな女の子がいつの間に、俺の隣に座っていた。「うわっ!」驚きのあまり、失礼極まりない声をあげてしまったが、女の子は大して気にしてない様子で俺を見る。それは無表情で、少しも感情が感じ取れなかった。
「ご、ごめん」
 慌てて謝ると女の子は少し首を傾げ「別に気にしてないわ」と細く、だけど美しい声で呟いた。実はこの女の子は俺と同じくらいに見えるだけで、大人なんじゃないか? と思わせるような声調だった。それにしても自慢じゃないが俺はこの公園にかなり入り浸っているけど、こんな女の子見たことが無い。夏休みということもあり、親戚の家に遊びに来ているのだろうか? 不思議に思い、
「家とかってどこらへん?」
 と訊ねると、女の子は
「あたしの家はこの町には無いわ。今は従兄弟の家に遊びに来てるの。従兄弟の家も、ここからはかなり遠いのよ」
 と変わらない表情のまま、淡々と言った。
「へ、へー……そうなんだ」
 と馬鹿みたいな相槌をうつと「そうよ」と女の子は遠くを見るような目をして言った。

 昼時ということもあり、日差しが痛いほどささる。滑り台やブランコのもち手など、金属の部分は火傷するんじゃないかというくらい熱くなるのだ。

 そんな中、俺と女の子の夏休みが始まった。

(ラムネ瓶の中の世界)1/3