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Re: 白雪姫はりんご嫌い ( No.269 )
日時: 2010/07/28 18:56
名前: 七海 ◆On3a/2Di9o (ID: L0k8GmDX)


 ジージーと蝉が何かを主張するみたく鳴いている。俺は気まずさのあまり、視線をあちらこちらへと動かしてその場を凌いでいた。この女の子と話が続く気がしない……早く誰か来いよ、皆何やってんだよ……と心の中でぶつぶつと文句をたれる。当時の俺は気づいてなかったが、その日は学校でプール課外があり、友達は皆そっちへ行ってしまったのだった。俺は夏休み前の先生の話なんてちっとも聞かなかったため、こんなことになってしまっていたのだ。そんなことは露知らず、誰か来ないかなと願ってると「ねぇ」と隣の女の子が声をあげた。
「何?」
 慌てて聞き返すとその女の子はじいっと俺を見て
「今日一日しかこの町に来られないから、思い出が作りたいの」
 と呟くように言った。その声は感情が含まれてない淡々としたものだったんだろうけど、俺には凄く寂しそうに聞こえて、
「分かった」
 と言ってしまったのだった。

 公園にたってる時計はもう一時半を過ぎていて、家を出てからもう三十分もたったんだと実感した。
じゃあ蝉取りしようぜ! とか女の子にさせる遊びじゃないだろって突っ込まれそうな馬鹿な発言に、その女の子は「うん、楽しそうね」と呟いた。多分真意じゃないと思う。
「あ……っと、ところで名前は?」
 忘れていたことを女の子に聞くと、首を傾げて俺を見つめながら、
「ひいらぎ、みちる。木に冬でひいらぎ、みちるはカタカナ」
 と言った。柊ミチル。何か不思議な雰囲気のする名前だった。
「俺は白井翼。俺はミチルって呼ぶから、翼って呼んでくれて構わないから」
 当時俺はかなり男女関係なく仲良くできるタイプで、女子のことを下の名前で呼ぶことなんて普通に出来ていた。中学に入り、思春期に差し掛かってからはなんとなく恥ずかしくなり出来なくなったのだが。
「つ、ばさ」
 片言なミチルの呼び方に、思わず笑ってしまう。そしてその細い手をつかみ、
「公園のアスレチックの下に虫取り網とカゴ隠してあるんだ! 取りに行こうぜ!」
 そう言うとミチルは何も言わず、俺に手を引かれながら駆け出した。色素の薄い髪がゆらゆらと揺れる。あ、綺麗だなとか幼いながら思っていた。

 アスレチックの下に隠しておいた虫取り網とカゴを二個ずつとり、ミチルに渡す。小柄でいかにも大切に育てられましたという雰囲気を醸し出しているミチルには不釣合いなそれを、珍しいものでも見るような目で見ている。
「蝉なんて結構そこらにいるから! ジージー鳴いてるだろ?」
 そう言うとミチルは「うん」と頷いてぎゅっと虫取り網のもち手を握る。本当白いな、とか思いながら俺はミチルの細い腕に目を奪われた。

(ラムネ瓶の中の世界)2/3