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　一番後ろの席が好きだ。
勿論、先生からの目を逃れて少し寝たりすることが出来るという点も素晴らしいと思うけど、あたしはそういう理由じゃない。クラス中を見渡せるからだ。
あ、知恵ちゃん一生懸命ワークの問題解いてるな。斉藤君は……寝てる。前から二番目の席なのに。塩田さんは、多分あの手つきは絵を描いてるんだろうな。……なんてことが分かるのだ。凄く楽しいと思う。そしていつも見るのは大好きな金井俊都のこと。
　金井は何か大抵寝てるか、起きていてもぼーっとしているかのどちらかに限定されている気がする。成績は悪くないって聞いた、というか滅茶苦茶良いと聞いた。授業中先生の話聞いてないのに何で……とあたしはいっつも不思議に思う。塾とかでみっちりやってるのだろうか？
　でも金井は理科の授業は真面目に先生の話を聞いてるのだ。……多分、理科の先生はあたしたちとそんな歳が離れていない女の先生だから。凄く綺麗だし。金井は積極的に手をあげて発言することはしないけど、理科の授業で寝てるところを見たことが無い。
『金井って、理科の下田先生のこと好きらしいよ』
　噂好きな女の子がそんなこと言ってたのを覚えている。そして今も下田先生は白いチョークで植物細胞の図を黒板に書いていて、それを金井は目を離さず見ている。

　金井のことが好きで好きで、大好きすぎてこんな細かいことまで分かるのに。何であたしは金井に好きって伝えられないんだろう。金井はあたしのこと好きになってくれないんだろう。そこが不思議。少し薄汚れた学校の机に顔を突っ伏す。はぁ、と大きな溜息が漏れた。好きな気持ちなら誰にも負けないけどなぁあたし。だけどそれだけじゃ駄目なんだよね。きっと。今も絶対金井は下田先生の授業を真面目に聞いてるんだろうなぁ。そう考えると少し辛くなった。

（大嫌いな理科の授業）

お題提供：郷里さん「君を好きすぎて」